IT不振で世界同時減益 「内憂外患」の懸念も
減速する企業業績(上)
企業業績が踊り場に差し掛かっている。世界の主要上場企業の純利益は2019年1~3月期に前年同期に比べて1割減り、日本、米国、欧州は2年9カ月ぶりにそろって減益となった。けん引役だったスマートフォン(スマホ)やIT(情報技術)企業の鈍化が鮮明で、世界経済の成長エンジンが失速しつつある。
QUICK・ファクトセットの金融を除く主要約1万2千社を集計したところ、1~3月期は日本が19%減、欧州が15%減と2四半期連続の減益で、米国もほぼ3年ぶりの減益だった。日米欧が同時に減益局面に入るのは人民元切り下げの「チャイナ・ショック」の余波が広がった15年7~9月期以来。この時は回復軌道に戻るのに約1年を要した。
今回も「好転が明確になるには時間がかかりそう」(大和証券の鈴木政博氏)と不安が漂う。成長セクターのITの失速が鮮明だからだ。
米中貿易摩擦に「データ経済の独占」への批判が重なり、北米のIT企業は1~3月期に4%の減益に沈んだ。3割減益となった米グーグルの持ち株会社、アルファベットは広告収入の伸び悩みと欧州での独占禁止法違反による制裁金が影響した。次の成長の芽と位置づけるスマホ「ピクセル」も「高級機種との競争が激しい」(ルース・ポラット最高財務責任者)。スマホのライバル、米アップルも「iPhone」の不振で16%の減益だった。
IT企業は欧州で4割減益、アジアも2割減益だった。中国ではネット検索最大手の百度(バイドゥ)がスマホ対応の遅れで四半期ベースで上場後初めての最終赤字に転落。欧州でもソフトウエア最大手の独SAPがリストラ費用で赤字となった。
先行きも不透明感が強い。QUICK・ファクトセットによると、主要企業(金融を含む)の2019年のアナリスト予想の一株利益伸び率は米国が4%、欧州が7%にとどまる。
日本も例外ではない。SMBC日興証券は4日、19年度の経常増益率予想を8.6%と3カ月前から2ポイント引き下げた。今後さらに下方修正もありうるという。大和証券が集計するアナリストの業績予想からはじく「リビジョン・インデックス」は5月末でマイナス35.4と約2カ月ぶりの低水準だ。下方修正が上方修正より多いのを意味する。
米中摩擦や巨大IT企業批判は根深く、逆風が収まるのに時間がかかるのは必至。次世代通信規格「5G(第5世代)」や人工知能(AI)、自動運転といった次世代産業も投資が先行しており、収益貢献はまだ先だ。
今、世界の企業業績の意外な下支え役は食品や小売り、ヘルスケアなどの伝統的な消費・内需系の業種だ。グローバルな好況の余韻で消費は底堅く、米小売り最大手ウォルマートのようにネット通販を取り込み、「実店舗とネットの両方で継続的な成長を続ける」(ダグ・マクミロン最高経営責任者)動きもある。
だが、こうした粘り腰の企業にも逆風が待つ。米国は関税引き上げによる物価高や大型減税の反動が不安材料だ。日本も10月に消費増税が控える。世界貿易の停滞に内需の減速が重なれば、企業が萎縮して成長投資が抑えられ、景気と業績の復元力をそぐ悪循環に陥りかねない。
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