関西人気質、世界に通ず 美術家 新宮晋さん
未来像
■風や水で動く立体作品を手がける美術家の新宮晋さん(81)は、国内よりむしろ海外で有名かもしれない。兵庫県三田市に拠点を置きながら、海外の出版社から飛び出す絵本を刊行したり、秋にフランスの古城で個展を開いたり。里山に根ざしつつ、持ち味でもある浮遊感でなぜか世界から引っぱりだこだ。
フランスのガリマール社から出版する飛び出す絵本は、これが3冊目。これまでの2冊と異なり、新たにサンダルの精、サンダリーノという坊やが主人公になる。サンダリーノは小さな(履物の)サンダル、という意味だが、私が暮らすここ兵庫県三田市にあやかった命名でもある。
フランス語版のほか、日本、イタリア、スペインの各国語に翻訳される予定だ。私が愛着を持つこの地名に根ざしたキャラクターが、命名の由来と関係なく単に愛してもらうだけでも、ちょっぴり誇らしい。
■並行して新宮さんはレオナルド・ダ・ビンチゆかりのシャンボール城で、没後500年記念の個展を開く。
ダ・ビンチはイタリア出身だが、晩年をフランスで過ごした。シャンボール城ですでにこの天才芸術家の偉業を振り返る企画展が始まっており、その後を受け10月から2020年3月まで「新宮晋 現代のユートピア」として個展が開かれる。城の内部だけでなく、庭園や池などに作品を展示する。かねて私は風をはらみ、また水を受けて精妙に動く立体作品を創作をしてきた。ダ・ビンチが研究を重ねた水の流れ、空気の流れへの探求心と、私の創作との間に通底するものがあると、企画者の目に留まったようだ。
■新宮さんが構える三田市のアトリエは、里山にさしかかる草深いところにある。どこか仙人じみた芸術家が、俗世を離れて創作をしている印象だ。ところがその活動は海外に直接発信している。
どうも『隠れ家』的なところが自分の性に合っているようだ。たしかに東京など都心部に拠点を構えた方が、内外の美術関係者にとって、あれこれ好都合だろう。ただ、ここ三田市のように刺激的な空気から一呼吸距離を置いた方が何かと心地よい。
関西人の良いのはユーモアがあり、閉鎖的でなく社交的なところ。この環境で通用すれば、全国、いや全世界で通用する。1964年の東京オリンピックのころ、田中一光、横尾忠則さんといった気鋭たちが、ポスターなどグラフィックアートで輝かしい成果を出していた。思えば高度経済成長下の当時、東京が主舞台なのに、この分野はなぜか関西出身者が多く、関西弁が幅をきかせていた気がする。
■新宮さんは1970年の大阪万博に作品を出展した。
「フローティング・サウンド」といい、中心部の池に浮かべた。ししおどしの要領で水面に音と波紋を作り出す。当時、そんな作品を手がける美術家はまだ少なかった。おかげで出展作家7人の1人に選ばれた。
2025年の大阪万博ですか。同じ大阪開催でも1970年と比べて、社会的文脈というか、求められるものが当時とは違うのでは。前回の万博は「人類の進歩と調和」が標語。「成長」への全面的な信頼感が足場になっていた。次回の万博は開催跡地とカジノが結びつけて考えられているのも、さて。
関西に対する注文? うーん、たとえば京都が京都らしさを失わないでいてほしい。最近イタリアのフィレンツェもそうだが、地価が上がりすぎて地元の人が住めなくなり、空洞化が進んでいるという。町屋などの風情ある建築が、気がつくと外国資本に買われていた。そんなことが常態化していないか気がかり。
(聞き手は編集委員 岡松卓也)
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