新しい時代の富の偏在(大機小機)
近年、世界的に労働分配率の低下傾向が顕著である。その原因の1つに、労働力を代替する新しい技術の進歩がある。近年のイノベーションは、これまで以上に労働力を代替する技術に偏る傾向が強い。その結果、新技術が成長を促進する場合でも賃金は伸び悩み、成長の果実がやがてはすべての人々に行き渡るという「トリクルダウン」理論が働きにくくなってきている。
しかし、ロンドン・ビジネス・スクールのバルカイ氏による最近の研究では、近年は労働分配率以上に資本分配率の低下が著しいことが明らかにされている。利子率や配当性向が傾向的に低下した結果、かつては勝者と考えられていた資本家への分配も大きく下落しているというのである。
その背景には、一部の新興企業が急成長し、それを担うスーパースターに、労働者にも資本家にも分配されない巨額の超過利潤が発生していることがある。その結果、成長の果実が内部留保や経営者・創業者への巨額報酬という形で、ごく一握りの人々に偏在する現象が生まれている。
経済学では伝統的に、成長が生み出す新たな価値が労働者と資本家のいずれかにバランスよく分配され、経済の好循環が生まれると考えてきた。しかし、近年は超過利潤から生まれた余剰資金が労働者ばかりか資本家にも十分に分配されないのが実情で、巨額の利益がごく一部の大富豪に滞留する現象が多くの国々で観察されている。
成長の果実がごく一握りの人々によってのみ享受され、時流に乗り遅れた大半の人々に行き渡らなければ、本来は「満ち足りた世界」であるはずの先進経済で多くの社会的な弱者が生まれてしまう。
巨額の超過利潤を手にした企業にとって、自らの利益の向上に資することのない分配を積極的に行うインセンティブはないかもしれない。しかし、このような近視眼的な行動は、労働者や資本家の消費を低迷させることで、長い目で見れば経済社会の持続的な発展に逆効果となりうる。
各国政府も、GAFAなど新興巨大企業を規制しようとする動きにようやく乗り出した。極端な富の偏在を是正し、できるだけ多くの人々が成長の恩恵を享受できるようにすることが、新技術が成長の源泉となる時代で真の豊かさを実現するために重要となっている。(甲虫)