グローバル企業の"税逃れ" 包囲網構築へG20協調
福岡市で9日閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、経済のデジタル化に対応した国際課税ルールの見直しが主要テーマの一つとなった。巨額の利益を上げる巨大IT(情報技術)企業などからなかなか税金を徴収できないのは各国共通の悩み。"税逃れ"を包囲するため国際協調を加速させ、2020年中に新ルールに最終合意する目標をG20として確認した。
「ルールの見直しには多国間主義によるアプローチが必要だ」。麻生太郎財務相は、8日の国際課税シンポジウムで、国際協調の重要性を何度も強調した。
念頭にあるのは、同席した英国やフランスなどで相次ぐ一方的な課税。米グーグル、アップルなど「GAFA」などの売り上げに一定割合の税をかける措置が各国で導入されつつある。これに米国は反発しており、ムニューシン米財務長官は「重要なのは差別的なアプローチをしないということだ」と強調した。
討議に出席した英国のハモンド財務相は、一方的課税について「不平等に対する国民からの政治的プレッシャーがあった」と認めた。ただハモンド氏もルメール仏経済・財務相も協調重視の姿勢は示し、両氏とも合意されれば一方的課税を撤廃すると明言した。
見直しの方向性について、デジタルサービスの利用者が多い国に税収を配分する方式にすることでは各国はほぼ一致している。しかし、各国ともに制度の激変は避けたいとの思惑が透ける。「『革命』よりは『進化』が望ましい」(ハモンド氏)「(税収面で)大きな不利益を被る国がでないようにしなければならない」(麻生氏)。どこかの国が独り負けするような見直しになれば、合意が難しくなるからだ。
ルール見直しには先進国だけでなく、新興国も合わせ約130カ国が参加している。「過剰に複雑な仕組みになってはいけない」(中国の劉昆財政相)と、途上国でも対応できる簡素なルールを求める声も目立った。
もう1つの大きなテーマが各国共通の法人税の「最低税率」導入だ。企業誘致を狙った税金引き下げ競争に歯止めをかけるための措置で、提案国となっているドイツのショルツ財務相は「合意は喫緊の課題だ。いま行動しないと10年後では遅すぎる」と強調。インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相も「新ルールを作っても低税率国に逃げられたら意味がない。最低税率は必要だ」とした。
今後の議論の行方を占ううえで、重要なポイントは2つある。
一つは新たな課税ルールの適用対象だ。IT企業を狙い撃ちをしたい英国に対し、米国だけでなく、仏も「差別をしないことは重要。慎重になるべきだ」(ルメール氏)との立場をとる。日本は「新たなルールの対象は適切に制限する必要がある」(麻生氏)と訴え、両者の中間に立つ。
もう一つは新興国の動向だ。特にインドネシアとインドは外国企業への積極課税で知られ、今回のシンポジウムでも「ルール見直しは抜本的であるべきだ」(スリ・ムルヤニ氏)など強気の発言が多かった。激変は避けるにしても、税収増という目に見える結果を示せるかもカギになる。
各国が細部の利害対立を超えて手を結べるか――。国際社会が試されている。(八十島綾平、寺井浩介)