米与党、対メキシコ関税に懸念 大統領選に影響も
【ワシントン=永沢毅】トランプ米大統領がメキシコに不法移民対策を促すため表明した同国からの輸入品への追加関税を巡り、米与党の共和党内でも異論が噴出し始めた。米経済への打撃が大きいとみる議員らを中心に阻止を目指す決議案を提出する動きが浮上している。政権が重視する移民と貿易の二大テーマが絡む問題への対応で党内の結束が揺らげば、2020年の大統領選にも影響しかねない。
共和の上院議員とホワイトハウス高官が参加した4日の昼食会は紛糾した。米メディアによると、発言した議員はすべて関税発動に疑問を呈し、賛成は一人もいなかったという。共和の上院トップ、マコネル院内総務は記者団に「党内で関税への支持が多くないのは確かだ。関税がかけられる事態を避けられるよう望んでいる」と語った。
関税をかける根拠となる国際緊急経済権限法(IEEPA)を発動するには、前提として非常事態宣言が必要だ。共和内では、宣言を無効にする決議案を出して上下両院で可決する案が取り沙汰されている。可決された場合、トランプ氏は宣言の効力が続くよう拒否権を発動する見通しだ。
前例もある。トランプ氏がメキシコとの「国境の壁」の建設費を確保するため2月に出した非常事態宣言に対し、米議会は宣言を無効にする決議案を提出した。野党の民主党が多数を占める下院で可決された。共和が過半数の上院でも同党から12人が造反し、可決された。トランプ氏は初の拒否権発動を強いられた。
議会側は上下両院の3分の2の賛成で再可決すれば拒否権を覆すことが可能だが、「壁」については下院で3分の2の賛成を得られなかった。だが、4日の昼食会では、対メキシコ関税について「前回と同じ支持が得られると期待しないほうがいい」という声が共和議員からあがったという。民主もあわせれば議会で予断を許さない情勢だ。
前回と事情が決定的に異なるのは、対メキシコ関税が米国の実体経済に打撃を与える可能性が高いことだ。特にテキサス州などメキシコに近い南部が地盤の議員には、地元経済への影響を懸念する声が強い。テキサス州の地元紙によると、10日から全輸入品に5%の関税がかかった場合、州内で10万人以上の雇用が失われる可能性があるという。同州選出のテッド・クルーズ上院議員は「不法移民対策の答えが、対メキシコ関税でないのは明白だ」と語った。
米国は対中で追加関税を発動済みだが、中国とは知的財産権の侵害などで対立する。「メキシコのような友好国」(共和のロムニー上院議員)とは事情が大きく異なる。
訪英中のトランプ氏は4日、共和内の反乱の動きを「やらないだろう。そんなのは愚かなことだ」と一蹴した。しかし、共和との足並みが乱れれば、地元への影響を危惧する議員の心理を冷え込ませ、再選戦略に影を落とすのは確実だ。発動日となる10日に向け、米・メキシコ間だけでなく、トランプ政権と共和の駆け引きも激しさを増す。