中国、レアアース輸出規制 「禁じ手」検討 米けん制
WTO違反で敗訴の過去 中国孤立リスクも
【北京=多部田俊輔】中国政府は電気自動車(EV)の部材などとして不可欠なレアアース(希土類)で新しい輸出管理システムを設ける方向で検討に入った。米中貿易摩擦が激化するなか、レアアースの輸入の8割を中国に頼る米側に揺さぶりをかける狙いだが、輸出規制は世界貿易機関(WTO)で「敗訴」して2014年を最終年に封じた禁じ手。5年ぶりの復活になれば、中国を孤立させる恐れもある。
中国国営の新華社は4日、国家発展改革委員会がレアアースの専門家と会合を開いたと報じた。輸出に至る生産から加工までの全工程をさかのぼって審査するシステムを設けて輸出管理を強化すべきだと専門家が提言し、発改委は提言を盛り込んだ措置を早期に打ち出す方針を示した。
中国がレアアースを米国に対抗するカードとみなすのは、中国がレアアースの世界生産の7割を握り、米国は輸入の8割を中国に依存するためだ。習近平(シー・ジンピン)国家主席が5月、レアアースの主産地、江西省贛(かん)州を視察し、「レアアースは重要な戦略資源だ」と米側をけん制していた。
10年の沖縄県尖閣諸島を巡る日中対立では、レアアースの対日輸出を滞らせて日本側に圧力をかけた経緯がある。当時はレアアースに輸出枠があったうえ、レアアースの輸出の半分は日本向けで最大だったため、輸出を滞らせ、輸出枠を減らすことで譲歩を引き出す狙いがあったとされる。
その後、日米欧が中国の輸出規制について、国内産業を恣意的に優遇する政策だとしてWTOに提訴し、14年に中国の「敗訴」が確定した。中国政府は15年に輸出枠を撤廃した経緯あるだけに、米国に対して輸出規制を設けるのかについては慎重な見方もあった。
それでも、中国政府は新しい輸出管理システムの設置という具体的な輸出規制の検討に乗り出すことにした。5年ぶりの輸出規制の復活につながる可能性を指摘する専門家も少なくない。いま中国は米国の制裁関税をWTOルール違反と主張するが、禁輸はその説得力を失わせ、中国の孤立を深める恐れもある。
さらに10年の事件は日本企業に衝撃を与えたが、中国も供給元としての信頼が傷つき、レアアースの使用量を減らす技術開発を促す契機になった。「中東に石油があり、中国にレアアースがある」。経済成長へ改革開放にかじを切ったかつての最高実力者、鄧小平氏はレアアースを早くから戦略資源と見定めた。そのカードを対米けん制に持ち出すことは、副作用を伴うもろ刃の剣でもある。
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