Bリーグ創設から3年 初の1億円選手誕生の意義
バスケットボール男子Bリーグで日本出身者として初の1億円プレーヤーが誕生した。千葉ジェッツの司令塔、富樫勇樹(25)。長く実業団リーグとして運営され、2016年までの2リーグ分裂時代には国際競技団体から制裁も受けたバスケットの事業規模は今、着実に拡大している。Bリーグの大河正明チェアマンと、富樫の所属クラブを運営する千葉ジェッツふなばしの島田慎二社長に今回の大台突破の意義を聞いた。
――3季目を終えた時点での日本出身選手初の1億円選手誕生をどう評価しますか?
「待遇や報酬は一番分かりやすい数字だ。16年秋のBリーグ開幕前から20~21年シーズンまでに1億円選手を出したいと公言しており、殻を破れた。目標より前倒しできたのは、想定を上回って事業規模が拡大しているからだ」
「最後の2リーグ分裂時代だった15~16年シーズンのバスケット界の全体の事業収益は105億円。それが今季(18~19年シーズン)は303億円になった。順調に伸びている多くのチームの中でも、千葉の今季の収益は約17億円とトップクラス。これは選手1人当たりで比べれば、サッカーJ1の中規模クラブと同じで、1億円選手がいつ出てもおかしくない環境だったと思う」
――特に千葉はBリーグの中でも屈指の観客動員を誇り、大企業を母体としないチームです。
「親会社がいないと1億円選手が出ないということではなく、自主自立で達成できたことは素晴らしい。今まで日本のバスケット選手が1億円をもらうことは誰も想像していなかったと思うが、子供たちや保護者にも目標を持ってもらえるのは大切なこと。比江島慎(栃木)や田中大貴(A東京)ら現役のトップ選手が自分たちも続こうと目標にすると思う」
――さらなる収益拡大に向けてカギとなるアリーナの新設計画が千葉を含め、各地で進んでいます。
「今季の入場率はB1(1部)平均で75%を達成しており、満席(85%以上)でない会場は限られている。十分な客席がないから、頭打ちに近いという状態だ。入場率80%くらいのクラブが座席数を増やせば、さらに入場者が増える事例はJリーグの川崎やG大阪などでも証明されている。バスケットでもアリーナ次第で、一気に今の2倍のお客様を入れられるクラブは出てくると思う」
――1億円選手を生むには十分な収益が不可欠ですが、今回千葉ジェッツが達成できた理由と意義をどう考えていますか?
「クラブの事業収益は1年目が10億円弱だった。昨季14億円、今季17億円で、来季は18億~19億円を見込む。きちんと成長を遂げてきたからこそ、富樫の活躍に見合った報酬を払える基礎体力も持てたということ。決して数字を絞り出したわけではない。1億円選手の誕生は、Bリーグの成長を証明する大きなメッセージにもなると思う」
「チームは天皇杯3連覇など結果を出しているが、富樫が単に良い選手だから1億円に到達したのではない。観客動員やファンクラブ、グッズ売り上げ、スポンサーなどビジネス面への貢献度がとりわけ高いことも大きな理由だ」
――そもそも、これまでのBリーグのクラブは各選手の報酬を開示していませんでした。
「記者会見をするかはかなり悩んだ。シュートを外したときに『1億円選手なのに』などと、必ず枕ことばが付くリスクも考えた。でも日本バスケット界のために、スターは狙って作らなければ生まれない。富樫を日本初の1億円選手に育て上げる経営をしたいとずっと考えていたし、彼が成長したときにその報酬を達成できるクラブ経営を意識してきたつもりだ」
「体の大きな選手が有利なスポーツで167センチの富樫があれだけのパフォーマンスを見せていることは、全国のバスケットをしている少年少女、これからやろうと考える子供に夢と希望を与える。今後の富樫の行動やプレーの質が、結果的に今回の報酬のふさわしさを証明すると思う。責任を持って取り組んでほしいし、彼はそんな重圧も楽しめる強い選手だ」
――ミクシィと提携して1万人規模のアリーナ新設計画を発表するなど、さらなる拡大路線を進めています。
「今の千葉はBリーグの中で先頭を走っている面がある以上、様々な取り組みは単に自社にとってのビジネスだけでなく、バスケット界にとって良い影響を与えられるかも判断材料になる。1億円選手も通過点で、何年かすれば2億、3億円選手も出るだろう。チームが勝って、フロントがお客様を入れる。お互いにビジネス面では競争するという、良い緊張関係を今後も続けていきたい」
(聞き手は鱸正人)