カンボジア首相 貿易戦争「米国民がダメージ」
カンボジアのフン・セン首相は30日、第25回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)で講演し、激化する米国と中国の貿易摩擦の影響について「(最終的には)追加関税を課された製品を購入する米国民がダメージを受けることになる」と述べた。
カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中で中国寄りの姿勢で知られる。対中依存の強まりについては「私たちの考え方をいつも尊重してくれる」と強調し、中国からの支援を引き続き受ける考えを示した。
米中貿易戦争は「それぞれの国同士の経済に悪い影響を与えるだけでなく、企業活動にも影響する」と指摘し、米中両国に自制を求めた。カンボジアへの「影響は今のところは少ない」としたが、「象(米国と中国)が戦えば、草は踏みにじられてしまう」とし、長期的な影響に懸念を示した。
中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」についても参加国の立場から言及した。「私たちはどこかの国に依存することなく、自立していく」と語り、日本やインドなど中国以外のアジアの大国とも連携していく姿勢を強調した。
東南アジアの産業集積地のタイで賃金が上昇するなか、国境を接するカンボジアでは工業団地が活況だ。労働集約型の製造工程を人件費の安い周辺国へ移す動きが広がっているためだ。国境近くのエリアでは住友商事と豊田通商が手掛ける工業団地で入居企業が増えている。今春にはタイとカンボジアを結ぶ鉄道も開通し、この動きを後押ししそうだ。
「『タイプラスワン』の文脈で、日系企業から引き合いは多い」。住商担当者がこう話すのは、2018年に完工したバンテイメンチェイ州ポイペト市の工業団地だ。同団地はタイ国境から約8キロメートルの近さ。カンボジアの首都プノンペンとタイの首都バンコクを結ぶ南部経済回廊沿いにある。
住商は同団地の販売代理を請け負う。初入居の電子機器受託製造の企業は、今月からタイ向けの製造を始めた。現在は別の企業と入居に向けた調整を進めている。
工業団地のあるポイペト市の周辺人口は300万人と労働者を確保しやすい。カンボジアは労働者の平均年齢が24歳と若いうえ、平均の月額賃金もプノンペンでは170ドル(1万8700円)とバンコクの378ドル(4万1600円)の半分以下だ。
豊田通商も16年にレンタル工場「テクノパーク・ポイペト」の操業を始めた。現在の入居率は8割を超え、拡張も検討している。同社は資格を持つ通関士を団地内に置き、効率輸出につなげているのが特徴という。このほか14年に開設したサンコーポイペト経済特区には、日本電産や自動車部品のニッパツが入居している。
カンボジアにとって追い風となるのは、今年4月下旬に開通したタイ側国境のアランヤプラテートとポイペトを結ぶ鉄道だ。45年ぶりに両国間を結ぶ鉄道が開通した。これまで両国間の物流はトラック輸送しかなかったが、鉄道による大規模な輸送で輸送コストが低下する。
今後はさらにトラック専用の国境検問所も設けられ、増加するトラックの交通量に対応していく動きもある。周辺インフラの整備が進む中、タイプラスワンの拠点として、カンボジアが一段と注目を集めそうだ。
日本経済新聞社は5月23、24日の両日、「揺れる世界とアジアのリーダーシップ」をテーマに日経フォーラム第29回「アジアの未来」を開催します。会場参加に加え、オンラインでの聴講も可能です。
第29回 開催概要