米国のアクセラレーター、日本進出 ものづくりも支援
スタートアップ企業を受け入れて育てるアクセラレーター会社が米国から相次いで日本に進出している。プラグ・アンド・プレイなどに続いてSOSVインベストメンツが7月、ものづくり分野の支援を始める。中国で有力な新興企業の成長を助けた実績と、深圳に多くの試作拠点を持つ特徴がある。事業のタネがありながら起業の少ない日本経済の後押しにつながりそうだ。
「起業アイデアが生まれる潜在力が高い」。米ベンチャーキャピタル、SOSVのショーン・オサリバン氏は日本についてこう語る。「ゲーム機やカメラなど、消費者のための創造的な機器を生み出してきた国だ」
同社は支援プログラム「HAX」を運営する。ハードウエア分野を対象に米中などで年200社近く支援。深圳などに約400の協力工場があり、ロボットなどを安くつくれる。ユニコーン予備軍に育つ例もあり、科学・技術・工学・数学に重点を置くSTEM(ステム)教育用のロボットメーカー、中国メイクブロックはその一つだ。
日本では住友商事、SCSKとHAXを運営する。7月から支援を受けたい事業者を募る。住商が4月、東京都千代田区の本社地下に設けた630平方メートルのオフィスで3カ月間、技術や事業のアイデア磨きに助言する。同社はニーズ調査、SCSKはデジタル化でも協力。HAX側と2社から計10人近くが専属でサポートする。プログラム参加は無料だ。
オサリバン氏は「シリコンバレーの投資家に技術を披露し、資金を集める」と話す。SOSV自身も6億5千万ドル(約713億円)の投資実績を持つ。「日本では年10件近い案件を支援する」
世界のアクセラレーターとしては米で05年に設立されたYコンビネーターが知られる。日本にはプラグ・アンド・プレイがいち早く進出した。日立製作所やSOMPOホールディングスなど30社と提携してフィンテック、IoTなどの分野でサポートしている。
事業は14カ国にわたり、大企業とのネットワークが強み。2千社を支援し、企業価値が10億ドルを超すユニコーンとして上場したデータ共有の米ドロップボックスなどに出資してきた。ブロックチェーンを使うグルメアプリのGINKAN(東京・港)は18年に参加した。神谷知愛社長は「5社以上の大手との協業につながった」と話す。
海外アクセラレーター企業の日本進出はイノベーションが生まれる動きを後押しする。その支援を受けようとするスタートアップ企業には、改めるべきことがいくつかある。例えば、グローバル展開をあまり積極的に考えていないことだ。
海外アクセラレーターからは、投資したい企業が少ないと不満が漏れる。米プラグ・アンド・プレイは中国で年100社超に出資する一方で「日本での投資実績はない」(サイード・アミディ最高経営責任者)
米民泊大手エアビーアンドビーなどを生んだ米Yコンビネーターは約2千社への出資実績を持つ。だが、このうち日本人が起業した企業は米国を拠点に福利厚生代行サービスを手掛けるFONDなど2社にとどまる。
日本の起業家が内向き志向のままアクセラレーターのプログラムに参加すれば海外勢の強みである世界とのつながりを生かせない。同時にアクセラレーターにとっては日本の起業家の意識変革を促すことが必要になる。
(大平祐嗣、駿河翼、鈴木健二朗)