G20・万博…勢いつくりPR 薮中三十二さん
未来像
■外務省でアジア大洋州局長、事務次官などを歴任し、日米貿易摩擦や北朝鮮の核開発問題を巡る6カ国協議の最前線で交渉に当たった薮中三十二さん(71)は大阪府松原市出身。現在は立命館大学客員教授を務め、東京と京都を往復して次代を担う若者の育成に力を入れている。
6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議は米中首脳会談も予定され全世界が注目するサミットになる。各国の新聞やテレビが押し寄せ、大阪や関西を売り込む絶好のチャンスだ。2006年にロシアで開いたG8サミットでは同国が開催地のサンクトペテルブルクを懸命にPRしていたし、私が外務次官の時の洞爺湖サミットでも北海道が首脳や首脳夫人向けのプログラムを相当工夫していた。
今後の日本は何で生きていくか。もちろんビジネスではあるが、もう一つは文化や歴史だ。それが観光にもつながる。外国から見るとビジネスは東京でも、文化では圧倒的に関西が魅力的。住むのも関西がいい。京都や奈良の有名観光地だけでなく、琵琶湖周辺や京都府南部の南山城などに見どころはたくさんある。実際に歩くと、朝鮮半島や中国との関係が昔から密接だったことがよくわかる。
京都の中心部は週末は観光客が飽和状態なので周辺への分散を図るとともに、マイカーの流入を規制するなどの工夫が必要ではないか。関西空港と京都、大阪を結ぶ高速鉄道も必要ではないか。
■立命館大学国際関係学部で留学生を含む学生を教える薮中さん。関西での外国人材の活用をどう見ているか。
留学生はきちんと質問や発言をするし、とても優秀だ。立命館をはじめ関西の大学は留学生の受け入れなどで全国でも先進的な取り組みをしており、そこをもっと海外に知らせて強みにしないといけない。ただ適性検査まで課される日本企業の採用試験は留学生には不評。そこを改善し、留学生をもっと積極的に採用するようにすべきだ。
関西への外国人観光客が急増しているのは、外国人が気安く感じる雰囲気もあるようだ。外国人労働者も受け入れやすいのではないか。しかし仕方がないから外国人労働者を受け入れるという考えならやめた方がいい。配偶者の帯同が難しい点などを含め、もっと血の通った制度にしないといけないだろう。
■世界遺産登録が確定的になった百舌鳥(もず)・古市古墳群は、薮中さんの出身地にも近い。
とてもうれしいニュース。子どものころは反正天皇の都跡とされる神社で遊んでいた。関西ではこのほかG20、統合型リゾート(IR)構想、25年の大阪万博などが予定されているが、これだけ一気に機会が訪れることはない。一つ一つのイベントと見るのではなく、関西を世界にアピールしていく一連の勢いにしてほしい。大阪、京都、奈良、神戸などがバラバラでなく、おのおの特徴が違う点を長所に「なんか面白いことをやろう」と、まとまれるかだ。
1970年の大阪万博は外務省でシンガポールの要人接遇を担当して会場を訪れ、熱気がすごく夢もあった。今度の万博でも文化的なものと、未来に向けた最新の技術やアイデアでワクワクする万博を期待する。大阪が誘致しているIR構想についてはよく知らないが、現状では物足りない国際会議場や展示場が整備できればいいのではないか。
20年後、30年後、関西は日本の文化都市の代表格として世界の人々がみんな知っている地域になれるといい。それにはまだ努力と工夫が必要だ。ヨーロッパは長い年月をかけて素晴らしい街づくりを進めてきた。
(聞き手は編集委員 宮内禎一)
コラム「関西タイムライン」は関西2府4県(大阪、兵庫、京都、滋賀、奈良、和歌山)の現在・過去・未来を深掘りします。経済の意外な一面、注目の人物や街の噂、魅力的な食や関西弁、伝統芸能から最新アート、スポーツまで多彩な話題をお届けします。