親善試合と南米選手権、「2つの日本代表」の意味
サッカージャーナリスト 大住良之
5月23日、日本サッカー協会は6月に国内で行われる国際試合の「日本代表」27人のメンバーを発表、翌24日には、それに続いてブラジルで開催されるコパアメリカ(南米選手権)に出場する「日本代表」23人を発表した。「2つの日本代表」に共通するのは9人だけ。なぜこの時期にこんなことになったのだろうか――。
■南米選手権メンバーは13人が初代表
6月初めから「日本代表」は異例の長期活動期間に入る。2日に集合して5日にトリニダード・トバゴ戦(豊田)、9日にエルサルバドル戦(宮城)という2つの親善試合をこなした後、11日に日本を出発してブラジルに向かい、15日から7月7日まで行われる南米選手権に出場するのだ。決勝まで進めば活動初日から帰国まで38日間もの長期に及ぶことになる。
もしこの期間を通じて同じ20数人のメンバーで活動できたら、ことし1月のアジアカップ以来の長期活動となり、2022年ワールドカップに向けてしっかりとしたチームの土台づくりができる期間となるはずだった。
だが昨年11月に出場が発表されて以来、南米選手権については大きな困難が予想されていた。日本が所属する大陸連盟の大会ではなく、「招待参加」という形のため、所属クラブに選手供出を強制することができないからだ。そのうえ、Jリーグは南米選手権の期間中にもリーグ戦の日程を入れた。その結果、クラブとの個別交渉を通じて22歳以下の「東京五輪世代」を中心としたチームを編成せざるを得なかった。
23人中13人が初代表という若手中心のチームとなった。豊富な代表経験をもっているのはGK川島永嗣とFW岡崎慎司の2人にすぎない。昨年来の「森保ジャパン」の中心メンバーといえる選手も、DF冨安健洋、MF柴崎岳、MF中島翔哉の3人しかいない。
その一方、国内での2つの親善試合には、基本的に昨年からことし3月の親善試合までのメンバーを中心としたチームとなっている。そこには「森保ジャパン」の攻撃の核ともいうべきワントップのFW大迫勇也、そして2列目のMF堂安律、南野拓実、中島の4人がそろって入っている。
いわば、「親善試合を正式な『日本代表』で戦い、南米選手権は『日本代表と呼ぶのもはばかられるようなチーム』で参加」というのが、今回の「2つの日本代表」の実態なのだ。
東京五輪も大事だが、その2年後のワールドカップに向け、この世代も強化しなければならないメンバーであるのは間違いない。彼らにとって、南米選手権は非常にいい経験になるはずだ。であればこそ、本来なら、国内の2試合もそのメンバーで行うのが筋のはずだ。羽田空港で初めて一堂に会するメンバーで、練習試合もなく、いきなり南米選手権の「真剣勝負」に放り込まれるというのは、「非常識」という言葉さえ通り越している。
だがこんな形になったのには、明確な理由がある。日本代表にとって最も大事な22年ワールドカップのアジア予選が、9月にスタートすることだ。
■9月のW杯予選へどちらも重要な強化の場
22年カタール大会が当初の計画どおり32チームでの開催と決まったことで、アジア予選は前回とほぼ同じ方式が確定した。ことし9月から来年6月にかけて2次予選、そして来年9月から21年の秋にかけて3次(最終)予選という形だ。
1月に長期間のアジアカップを戦ったことで、森保一監督は3月に行われた親善試合では多くの主力を休ませた。6月の親善試合のチャンスを逃すと、次の活動は9月上旬、ワールドカップ予選そのものとなってしまう。このため、9月を前にいちど「ベストメンバー」での試合をしておく必要があったのだ。
このように考えれば、6月の親善試合も非常に重要であることがわかる。相手は中米の2カ国だが、相手に関係なく、ワールドカップ予選と同じように戦う姿勢が必要だ。森保監督は招集した27人のメンバーの多くを使うだろうからメンバー固定というわけにはいかないだろうが、親善試合だからといって甘いプレーに陥るようなら、9月からの予選は非常に厳しいものとなる。
一方で、南米選手権に出場する「日本代表」には、果敢なチャレンジを期待したい。ふだんは欧州のクラブでプレーしている選手たちが、自らの母国、家族の目の前で戦う大会である。「命をかけた戦い」という表現が大げさではない南米の選手たちに対し、少しでもひるみを見せたら日本に勝機はない。いったんピッチに立ったら、年齢も経験も関係ない。真っ向から戦いを挑み、来年の東京五輪だけでなく22年ワールドカップにつながる自分自身を切り開いてほしい。
19年夏、「『2つの日本代表』物語」。どんな果実を生むか――。