常識を破る正面突破 ラグビー日本代表・レメキ(上)
ラグビーのWTBといえば華麗なステップで相手を抜き去るイメージだが、日本代表のレメキ・ロマノラバは時にその逆をゆく。
正面衝突して、力で打ち砕く。「当たるのが好き。外に行ったらトライを取れたのに、ということも結構あるよ」。昨年2月、スーパーラグビーのデビュー戦もそうだった。味方の短いキックをキャッチ。相手と1対1になってもかわそうとしなかった。「結局、当たりにいって(倒れて)手を骨折したよ」と笑う。
177センチ、95キロ。代表選手としては小柄だが、その筋力は同僚の大男たちを上回る。160キロを上げるベンチプレスは「バックスで余裕の1番。チーム全体でも3位くらい」。懸垂は1位、背筋力も2位。「パワーでは誰にも負けない」と言い放つ。
瞬発力は親譲り。トンガ出身でプロボクサーとして活躍した父を持つ。自身も故郷のニュージーランドでリングに上がった。公式戦6戦全勝としたところで父からストップがかかった。「体にダメージが残るからラグビーにしろ」と。
闘いの場を芝の上に移してから随分たっても、相手をKOしたい気持ちがどこかにある。昨年、所属のホンダのコーチにクギを刺された。「足も速いし、アジリティー(機敏さ)もあるんだから、代表では最初にフットワークで勝負。ダメだったらパワーを使え」
「最初からパワーを使ってもいけるけど」とこぼしつつ、助言を受け入れている。昨年6月のジョージア戦ではステップで2人を抜き去り、きれいにフィニッシュ。昨季のトップリーグのトライ王にも輝いた。
■フットワーク磨き代表の主軸に
ジョセフ日本代表ヘッドコーチはレメキを右WTBの主軸と公言。その突破力を活用する策も授ける。ボールが左に展開されたとき、右WTBは普通、大外で待つ。しかし、今の代表では内に移動し、リターンパスを呼び込んで突進する。鈍足FWが正面にいるときは特に狙い目だ。「(腕で相手を押す)ハンドオフを使って抜くか、細かいフットワークでバランスを崩し、吹っ飛ばす」とレメキは目を光らせる。チームの強烈な"右パンチ"の出番は増えている。
WTBにはより運動量が求められるが、「フィットネスもチームで4番目くらい。昔から走れたし、体を大きくしても全然落ちないよ」。胸を張った後で笑う。「体力があるとラグビーは楽しい。何でもできる。プラス、パワーがあるから、もっと楽しい」。走って、かわして、ぶつかって。時代とともに洗練されてきたラグビーだが、もともとはこんなシンプルなスポーツだった。=敬称略
(谷口誠)