米の中国企業警戒、鉄道車両にも矛先 入札禁止法案
【ワシントン=鳳山太成】米連邦議会で中国企業への警戒が鉄道車両にも広がっている。23日には首都ワシントンの地下鉄で世界最大手の中国車両メーカー、中国中車の入札を事実上禁じる法案が提出された。車両に設ける監視システムがスパイ活動に使われるとの疑念が根強い。華為技術(ファーウェイ)に続き、中国企業締め付けの動きが際限なく進んでいる。
「極めて大きな過ちになる」。野党・民主党のマーク・ワーナー上院議員は23日、連邦議会議事堂近くにある地下鉄駅の地上入り口で記者会見し、首都圏の地下鉄に中国企業の車両を採用すれば、米国の安全保障上の脅威になると主張した。
ワーナー氏ら首都圏のバージニア州、メリーランド州の上院議員4人(いずれも民主)が提出したのは、今後10年間の投資額を拠出するワシントン首都圏交通局の連邦予算案だ。不公正な政府補助金を受け取る国有企業からの車両購入を禁じる条項を盛った。名指しは避けたが中国中車が標的だ。
日本の川崎重工業などから車両を買ってきた同交通局は近く新型車両の入札を実施する。法案が効力を持つのは入札後だが「交通局は(議会の懸念を)理解している」(ワーナー氏)。中国中車が意欲を示してきた10億ドル(約1100億円)超の大型案件獲得は難しくなった。
中国勢が米国で鉄道車両を手掛ける事への抵抗感は与野党を問わない。超党派議員はこのほど上下院で全米レベルで調達を阻止する法案を出した。共同提案した与党・共和党のリック・クロフォード下院議員は日本経済新聞の取材に「中国の国有企業であり、中国政府が映像や音声の収集に使う懸念がある」と話す。
一方、中国中車はスパイ活動への関与を全面的に否定している。
米議会の動きには、世界市場で存在感を高める中国企業の勢いを食い止めたいとの思惑も絡む。巨大国内市場を抱える中国中車の売上高は3兆円超で、仏アルストムや独シーメンスの鉄道事業をはるかにしのぐ。米国でもボストンやシカゴ、ロサンゼルスなど大都市で案件を取ってきた。
ハイテク化が進む鉄道車両は中国の産業戦略「中国製造2025」で掲げる重点分野の一つだ。補助金など豊富な政府支援を武器に「利益を心配する必要がない」(米鉄道安全同盟のエリック・オルソン氏)ため安値攻勢を仕掛けられる。
米政権と議会はファーウェイや中興通訊(ZTE)など通信機器や監視カメラ大手からの政府調達を禁じた。いずれも有力な国内企業が存在しない産業だ。安保を持ち出しつつ「不公正な競争で米国企業が敗れて雇用が失われた」と主張すれば有権者の理解も得やすい。今後も中国のインフラ関連企業への締め付けは止まりそうにない。