プロ転向の川内優、マラソン普及へ全国行脚
3月末に公務員ランナーを卒業した川内優輝(32、あいおいニッセイ同和損保)がプロに転向して活動の場を広げている。全国津々浦々、毎週のようにレースを重ねてきたスタイルを生かして地域に貢献。市民ランナー目線を忘れずにマラソン人気を支え、普及に力を注ぐ覚悟だ。
「今日は楽しく走りましょう」。平成も終わりが近づいた4月29日、川内は家族とともに福島県川内村にいた。翌日の「川内の郷かえるマラソン」を控え、弟の鮮輝(よしき、28)や鴻輝(こうき、26)とランニング教室を開催。地元の小学生約25人に走る際の目線の位置や腕の振りを教え、一緒にリレーをして楽しい時間を共有した。
同じ「川内」が縁で2016年の第1回大会から家族そろって参加しているが、子ども向けのイベントは今回が初めて。「専門用語を使わず、わかりやすい説明を心がけた。逆に元気をもらった」。ハーフマラソンを走った大会当日にもトークショーを開き、気前よく即席のサイン会も実施。あいにくの雨となったが、平成最後の日に時間の許す限り、地域の人々と交流を深めた。
こうした地方の小規模の大会に顔を出し、地域住民や市民ランナーとふれ合う活動は、川内がプロとして実現したい取り組みだった。「テレビで見たことしかない選手が目の前を走る。これは何事にも代えがたい経験になる。小さい大会ほどトップ選手が来ないので、私がやることで喜んでもらいたい」
所属先のあいおいニッセイ同和損保との契約も、全国の市民マラソンに参加して講演会やランニング教室などイベントを開催し、地域の盛り上げ役を担う「マラソンキャラバン」の提案を受けたことが決め手になった。各地を飛び回る川内には渡りに船の提案で、「びびっときた」。交渉の場でプランを提示した同社経営企画部の倉田秀道次長も「折衝段階から実現に向けて具体的な話をさせてもらった」と語る。
全国に支店を持つ同社は約240の自治体と連携しており、協賛している「川内の郷かえるマラソン」は、そのキャラバン第1弾だった。今後は6月の「隠岐の島ウルトラマラソン」(島根県)、7月の釧路湿原マラソン(北海道)と続き、秋にも実施する予定だ。
地方の大会ほど魅力を感じるのは、自身の「旅好き」と無縁ではない。レースと観光を組み合わせて計画を立てることが楽しく、「マラソンの結果が良ければ旅が素晴らしくなり、悪ければ寂しくなる。(旅の)スパイスがマラソンなんです」。安く手配して旅に出る学生時代の感覚もいまだに抜けきらないと笑う。
4月からはツイッターも始め、プロと市民ランナー双方の視点でレースの裏側を伝え、観光地を写真とともに紹介している。ボストン・マラソンでは現地での食事や大会前の様子などを投稿。積極的にマラソンの魅力を発信する姿は、「宣伝部長」のようだ。
そんな川内は市民ランナーにとって身近な目標だろう。最近は市民マラソンでも強いランナーがいるそうで「川内を倒そうとやってくる。大差をつけられたら恥ずかしいので負けられないプレッシャーはある」。プロにもなって余計に結果も求められるが、「レース後は楽しく交流してお互いお疲れさま、と言い合える存在でいたい」。地域との出会いを求めた全国行脚は、走る原動力になっている。=敬称略
(渡辺岳史)
プロになって約2カ月。仕事の代わりにイベントを入れて相変わらず多忙を極めるが、陸上中心の生活には徐々に慣れてきたという。
公務員時代は午前中に1時間半~2時間の練習を行い、午後1時前に出勤、同9時すぎまで働いていた。現在は毎日欠かさず「1キロ=5分弱」のペースで20キロを走る。普段は週半ばにインターバル走や「ペース走+フリー」を組み込むといい、「1キロ10本」のインターバル走はレースの1週間半前に行う定番練習。「そこそこできれば、レースもそれほどひどくならない」という調子の指標にもしている。
休養日は入れておらず、4月は走行距離が月間600キロ弱から700キロにアップ。6月からは約2カ月、北海道・釧路で合宿を行う予定だ。スピード強化をテーマに、2時間8分14秒の自己記録更新を目指していて「月間の800キロは超えたい」と意気込む。
以前は時間がなくて常に練習か治療かの選択を迫られていたといい、「2、3カ月もケアに行かないことがあった」。プロになって「(大会期間以外に)街の治療院に行く時間ができた」ことは競技力の向上にもプラスに働きそうで、さらなる飛躍が期待される。