海洋プラごみ、漁業や観光も排出源に
海を漂うプラスチックごみを巡り、従来の生活関連だけでなく、漁業や観光が排出源として問題視され始めた。英国の研究グループは北大西洋でのプラスチックごみのトラブルが2000年以降に10倍に増えたと指摘し、ごみのうち半分は網など漁業由来だったと分析した。地中海では夏場のバカンス客がごみを4割も増やす。プラスチック消費量が増えるなか、国際的な対策が急務となっている。
「北海に多数生息する海鳥、アザラシ類、クジラやイルカが(漁網など)プラスチックに絡まるリスクの高まりに直面している」。英海洋生物学会などの研究チームは4月中旬、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで従来考えられていた以上に深刻な汚染の実態を明らかにした。
プランクトン測定機材にプラスチックごみが絡みつくトラブルを過去60年分にわたって調査したところ、2000年以降ではトラブルが約10倍に増えていたことがわかった。ごみの約半分を漁網や釣り糸が占めていた。
石油由来のプラスチックは安価で軽量な素材として、レジ袋や食品包装、衣類や工業製品などに幅広く使用されている。15年の世界生産量は約4億トンと50年前に比べ20倍以上となった。新興国の需要拡大で国連は30年までに生産量が6億トンを超えると予測する。
自然に分解されないプラスチックごみは現状年間800万トン以上が海に流れ込んでいるとされ、世界各地で問題が顕在化している。ごみ埋め立て地からの飛散や川などへの投棄、歯磨き粉や洗剤に含まれる研磨剤など陸上で営まれる生活関連が発生源として目立ってきた。ただ、化学繊維で編まれた漁網などが環境に与える負荷も深刻なことが分かってきた。
オランダの非政府組織(NGO)オーシャン・クリーンアップが、米国のハワイとカリフォルニア州の間で160万平方キロメートルにわたってプラスチックごみが集積する「太平洋ごみベルト」を調べたところ、浮遊するごみの46%を漁網が占めた。
流された漁網は海中を漂い続け、ウミガメやクジラなどに絡みつく。プラスチックのごみによって窒息したり傷を負ったりする哺乳類は、毎年10万頭に上るとの推定もある。
豊かな自然環境を求める旅行客もプラスチックごみを増やしている。世界自然保護基金(WWF)によると、多数の保養地を抱える地中海では年間2億人超の観光客によって、夏のバカンスシーズンに海に捨てられるごみの量が4割も増加している。
地中海は東西に細長い内海だ。紫外線や波によって5ミリメートル以下に砕けた微小プラスチックの集積度は世界の他の海域と比べても最も高い水準に悪化しているという。
経済協力開発機構(OECD)は海洋プラスチックによる生態系への打撃や漁業や観光業への悪影響などの経済的コストは年間130億ドル(1兆4300億円)に達すると警鐘を鳴らす。
折しも日米欧の先進国が消費したプラスチック廃棄物を引き受け、リサイクルしてきた中国が国内の環境保護を理由に17年から受け入れを規制した。行き場を失った廃棄物は処理インフラの脆弱な東南アジアやインドなどに向かい、海洋汚染の深刻化が懸念されている。
有害廃棄物の国境を越えた移動を制限する「バーゼル条約」の締約国は今月10日、汚れたプラスチックごみを新たな対象に加えることで合意した。21年から海外輸出を規制する。
欧州連合(EU)は30年までに、使い捨てのプラスチック包装を域内で無くし、すべてを再利用または素材としてリサイクルすることを目指す。日本政府は6月に大阪で開催する20カ国・地域(G20)首脳会議で、海洋プラスチックごみ対策を議論の柱に位置づける。
地球規模の環境問題への取り組みは、ごみ処理プラントや代替素材の生産などで技術を持つ日本企業の商機につながる可能性もある。