サッカーバカでいたい 次は未知の場所で
5月12日、プレミアリーグ最終戦に途中出場した。客席を埋めたサポーターから、いつも以上に温かな声援を送られた。試合後には今季限りで退団する選手の一人として名前を呼ばれ、チームメートとピッチを回った。これが退団セレモニーのすべて。あいさつも花束もない。僕には十分だった。そんなふうに送り出してもらえる喜びと同じくらいの悔しさもあるからだ。
29歳の夏、レスターへ移籍した。代表でもベテランとなり、「若手のために」「引退後を見据えて」みたいなことを考え始めてもいた。
しかし、前年度の残留争いから一転、奇跡の優勝劇を演じたレスターは僕にいろいろな希望を見させてくれた。アマチュアリーグからのし上がったジェイミー・バーディーをはじめ、チームメートの多くが無名の選手だった。彼らとプレーすることで「もっと貪欲にならなくちゃダメだ」と思い知った。
若手を育てるとか悠長なことを言っている場合じゃない。僕自身がもっとハングリーにならないと、つかめるものもつかめないと痛感した。その後、代表入りや強豪クラブへの移籍を果たした仲間の存在は本当に刺激になった。
プレミアリーグでプレーして抱いたのは、味方もゴールも「遠い」という感覚だ。組織的なコンパクトさがないから、その距離を埋める速さや高さ、身体能力の高い選手が活躍できる。
その遠さを克服するために僕は連続性やスタミナで勝負した。誰よりも速く反応し、走って走り切る。そのうえでゴールを決める。前半だけで6得点した2017年シーズンは、その挑戦が形になりかけた。しかし、その後、負傷し「献身的な岡崎慎司」という印象をプレミアリーグで変えることはできなかった。
当然未練は残る。でも、この悔しさが僕をさらに駆り立てる。負けたままでは日本には帰れない。
できることなら、次は未知の場所でプレーしたい。例えば、イタリアやスペイン。僕の英語でも何とかなった、ドイツや英国とは環境が大きく異なる。絶対に苦労するだろう。でも、慣れた場所では楽をしてしまうタイプの僕がハングリーでいるためには、そういう試練が必要なのだ。
僕の挑戦で小学生の二人の息子や妻には苦労をかけるに違いない。一度単身赴任を試みたこともあったが、僕が音を上げてしまった。ありがたいことに、家族は決断を後押しすると言ってくれた。「家族のことを考え、やりたいことを曲げないで」と。
年齢を重ねると、貪欲であり続けることは難しい。どうしても、先のことを計算したり、いろいろと"大人の考え"になってしまう。
どれだけサッカーバカでいられるか。これまでも、これからも、それが重要だ。
(レスター所属)