日本代表、6月の陣 経験を五輪・W杯への財産に
6月、サッカーの日本代表は4台の"バス"をブラジル、フランス、ポーランドで走らせる。男子のU-20(20歳以下)、U-22(22歳以下)、フル代表、そして女子のなでしこジャパンである。それぞれ目指す目的地は違っても、大きな山の頂上を目指し、持てる力を振り絞るのは同じだ。
6月は大会が世界各地で目白押し。Jリーグの最中にそうした大会に日本が参加できるのは、代表に選手を送り出すJクラブや大学の理解がなければ不可能なことである。小異は捨て、選手の成長を期待し、ひいては日本サッカーを強くするという大同につけるのは、サッカーに携わる人たちの素晴らしいところだろう。本当にありがたいことである。
大会を順番どおりに紹介すると、まず5月23日から6月15日までポーランドで開かれるU-20ワールドカップ(W杯)がある。影山雅永監督率いる日本代表はB組で23日にエクアドル、26日にメキシコ、29日にイタリアと対戦する(文中の試合日はすべて現地時間)。
今回のメンバーからはアジア予選の段階では主要なキャストだったMF久保建英(FC東京)、安部裕葵(鹿島)、GK大迫敬介(広島)が外れたが、こういうときこそ本大会に臨む選手には存在感を見せてほしいと思う。久保や安部がいないということは、彼らがいたら出る機会のなかった選手にチャンスが回ってきたということ。ここで活躍すれば、さらに分厚い選手層が形成され、来年の東京五輪にも追い風になり、選手個々にとっても評価を上げるチャンスになるだろう。
■日本代表というバスに指定席なし
日本代表というバスはU-15から1歳刻みであるが、そこに指定席という発想はない。どのバスに誰が乗るかは、すべてその選手の力量次第。力不足とみなされ、バスから降ろされる選手がいれば、逆に力を認められ、さらに上のカテゴリーのバスに乗り換える選手もいる。
確かなことは、代表というバスには乗れるときには乗った方がいいということ。「次のバスで」とやり過ごし、その次は来なかった例などいくらでもある。
6月1日から15日までフランスのトゥーロンで開かれる国際大会にはU-22日本代表が参加する。参加国は12チームでA組の日本は1日イングランド、4日チリ、7日ポルトガルと対戦する。どこも強国ばかりだ。
6月は欧州のオフシーズンにあたるため、この大会は良質な若手が毎回多数出てくることで知られる。いわばタレントの見本市。日本はフランス協会との友好関係からたびたび招待されている。W杯ロシア大会後に欧州ネーションズリーグが始まり、欧州のトップチームと対戦することは非常に難しくなっている。欧州の未来のフル代表予備軍と、ここで手合わせしておくことは伸び盛りの日本選手にとっても大きな刺激になるだろう。トゥーロン国際に臨む選手たちも年齢的には間違いなく東京五輪候補である。
なでしこジャパンはW杯フランス大会に出場し、2度目の優勝を狙う。6月7日に開幕し、決勝は7月7日。D組の日本は10日アルゼンチン、14日スコットランド、19日イングランドと対戦する。
高倉麻子監督は鮫島彩(INAC神戸)、熊谷紗希(リヨン)、阪口夢穂(日テレベレーザ)、岩渕真奈(INAC神戸)ら11年W杯優勝メンバーと、長谷川唯、植木理子、遠藤純(日テレベレーザ)、杉田妃和(INAC神戸)らU-17W杯、U-20W杯で優勝経験のある若手との融合を図っている。
W杯初出場の若手にとっては非常にストレスのかかる大会になるだろうが、女子の五輪サッカーは年齢制限がないため、フランスでの経験はそのまま来年の東京五輪につなげられる。ベテランにリードしてもらいながら、たくさんのことを吸収してほしい。
フル代表の男子はブラジルで開催されるコパアメリカ(南米選手権)に参加する。6月14日のブラジル対ボリビアで開幕し、決勝は7月7日、5年前のW杯と同じリオデジャネイロのマラカナ競技場が舞台になる。
■強度高い試合、一気に才能開花も
1916年に第1回が開かれたコパアメリカは南米連盟加盟10カ国が一堂に会し、覇を競う由緒正しい大会。93年大会から主に北中米カリブ海を対象に2チームが招かれるようになり、今回は次期W杯開催国にしてアジア王者のカタールと日本が招待参加することになった。
C組の日本は17日にチリ、20日にウルグアイ、24日にエクアドルと対戦する。A、B、Cの各組上位2チームと3位チームの中から成績のいい2チームがベスト8に進める。日本は3位でも成績次第で、A組1位になることが確実視される地元ブラジルとベスト4を懸けて戦える可能性がある。
コパアメリカはW杯、欧州選手権(ユーロ)とともに代表戦の最高峰に位置するといっていい。その中でもこの大会の特長は試合に懸けるモチベーションの高さが半端ではないことだろう。ネイマール(パリSG)を擁するブラジル、メッシ(バルセロナ)のアルゼンチンですら、油断すると寝首をかかれる厳しい戦いの連続。
日本が対戦するウルグアイにもカバニ(パリSG)やスアレス(バルセロナ)、チリにはビダル(バルセロナ)のようなスーパーな選手がいる。こういう面々と真剣勝負ができるだけでも選手冥利に尽きるというもの。
それも南米で、である。客席では発煙筒がたかれ、選手もサポーターも異様な熱気に包まれて目が血走っている場所で。そんな緊迫感に満ちたスタジアムで何ができるか。対戦相手はスーパー、日程はタイト、間違いなく日本の選手は相当擦り切れるだろう。試合以上に強度の高い練習はないが、コパアメリカくらいになると並の試合の数倍という強度になるだろう。
だからこそ、才能の埋もれた部分が、そういう場所で一気に花開く可能性がある。ミリ単位の精度や駆け引きにおののきながら。若いうちに南米の奥深さを南米で知れることは後々、大きな財産になるだろう。
率直に言って、コパアメリカに出てくる南米勢より強い南米勢はどこにもない。「これ以上の強い南米はない」と断言できる。南米勢を不得手とする日本にとって最高のレッスンになるだろう。
■力を出し尽くし、己の力の不足知る
招待参加の日本が手本にしたい国がある。北中米カリブ海のメキシコだ。コパアメリカ招待参加の常連となるうち、南米勢を砥石にどんどん自分を磨いていった。メキシコがW杯ベスト8の常連になったこととコパアメリカ参加は決して無縁ではないだろう。
メキシコは2011年のこの大会に、翌年のロンドン五輪をにらんでオーバーエージも組み込んだ五輪チームを送り込んだ。結果は3敗でグループリーグ敗退したが、そこでの経験を生かし、ロンドン五輪では準決勝で日本、決勝でブラジルを破って見事に金メダルを手にした。
日本が、そんな大会で上位に進むのは至難の技。が、コパアメリカのようなシビアな戦いを経験しておけば、プレー面では来年の東京五輪が楽に感じるようにも思う。コパアメリカで遭遇するより大きな"イノシシ"が、五輪に出て来ることはないからだ。
とにかく、選手たちは力を出し尽くして、己の力の不足を知る大会にすればいい。敗戦は失敗ではない。敗戦を次につなげられないのが真の敗戦なのだ。ブラジルの経験を来年の東京五輪、さらに3年後のカタールのW杯につなげられたら十分におつりはくる。
W杯ロシア大会の日本の平均年齢は28歳代だった。優勝したフランスは25歳代。カタールのW杯をにらめば、ここから新旧交代の速度をさらに上げていく必要もあると思っている。
(サッカー解説者)