米ツアー、ウッズがもたらした異次元の進化
編集委員 串田孝義
マスターズ・トーナメントを14年ぶりに勝ったタイガー・ウッズ(米国)の優勝会見の言葉を思い出す。「あなたはゴルフ界にどんな影響を与えてきたか」という問いに答えたものだ。
「若い世代に影響を与えたかもしれない。全員よくトレーニングをするようになった。彼らの体は大きく、強い。いわゆるアスリートだ。ボールも飛ばすよね。プロになった当時、ジムにいたのは僕くらいだった。あとはビジェイ・シンかな。今はみんなが競ってトレーニングをしている。あのフィル・ミケルソンでさえもね」
米ニューヨーク州のベスページ州立公園ブラックコースで行われた今季メジャー第2戦、全米プロ選手権を4日間単独首位を守りきって制したブルックス・ケプカ、そのケプカを猛然と追いかけたダスティン・ジョンソン(ともに米国)の迫力満点の一騎打ち。同コースで行われた2002年全米オープンはウッズがただ一人、アンダーパーとなる3アンダーの優勝スコアで制したが、今回は6人の選手がアンダーパーをマーク。もちろん、開催時期、気象条件などが異なるだけに単純比較は難しいが、アスリートゴルファーが席巻する現在の米ツアーの進化を如実に表している。
全米プロの4日間平均で313.0ヤードのドライビングディスタンスを記録したケプカ。最終日、D・ジョンソンに追い上げられた15番で350ヤードの規格外のビッグショットをフェアウエーに置き、4連続ボギーで傾いた悪い流れを食い止めた。ウッズと同組で回り、65でスコアを大きく伸ばした2日目のフェアウエーキープ率は71%、パーオン率は83%の高率をマークした。
筋骨隆々、鍛え上げた太い腕っぷしで知られるが、今季に向けて取り組んだのは減量。スイングの邪魔になる余分な体重を10キロほど落とし、「飛距離は落とさず、精度が上がった」。メジャー2連勝のかかっていたウッズとて、自身が体調不良とあってはまったく歯が立たない、圧倒的な力の差をみせつけられた。
こんな異次元の域に達したと思われた戦いの上位にアジア勢もしっかりと食い込んだ。パッティングフォームを変えて復調に手応えをつかんだ松山英樹は16位で来年の出場権獲得には届かなかったが、前週のAT&Tバイロン・ネルソンで米ツアー初優勝を果たしたばかりの康晟訓(韓国)が7位、タイの23歳、ジャズ・ジェーンワタナノンドが14位に入った。
1月の日本ツアー開幕戦、SMBCシンガポールオープンを勝ったジェーンワタナノンドは難コースのベスページ・ブラックを前に大会前は「80を切れるだろうか」と悪夢にうなされたといいつつ、2日目に68、3日目はその日のベストスコアの67をマーク、一時2位に浮上した。まだ細身の体ながら4日間のドライビングディスタンスは304.1ヤードで松山(303.5ヤード)を上回り、パワー負けしたところはなかった。騒がしいことで知られるニューヨークのファンに名前を連呼され、ほほ笑みを絶やさなかった。
「おそらく名前を呼ばれているんだろうと。(発音が難しく)ちょっと変でそれが楽しかった」と、実はハートも強いところをみせた。世界ランクも自己最高の69位となり、今平周吾(76位)より上位につける躍進ぶりだ。
今大会を4日間戦い抜いて54位のジャスティン・ハーディング(南アフリカ)。メジャー今季初戦のマスターズでは12位に入り、翌年の出場資格を確保した。昨年9月には日本、アジア両ツアー共同のダイヤモンドカップで来日するなど欧州、アジアを舞台に腕を磨いてきたたたき上げの33歳。満を持して乗り込んだ米ツアーでの滑り出しは順調といえよう。こうしてみると選手を鍛える場としてのアジアツアーの重みが増しているのをひしひしと感じる。