投球は剛、精神は柔 ソフトバンク・千賀滉大(上)
圧倒的なスピードは見る者を魅了する。ソフトバンクホークスの千賀滉大(26)は日本球界の速球王だ。
3月29日、開幕戦の初球で161キロをたたき出し、ヤフオクドームをどよめかせた。うなりを上げる剛球は日本ハムの主砲・中田翔をも「脅威を感じる」と震え上がらせる。150キロ超で食い込むツーシームもえげつない。
19日まで8試合に登板し5勝無敗、防御率1.26。9イニング換算の奪三振率は12.63と別次元をいく。4月には4試合連続2桁奪三振も記録した。
「今年はいいシーズンオフを過ごせた。やってきたことを出せている」と言う。テーマとしたのは「100球を超えても強い球を投げられる体をつくること」。重点的に鍛えたのは上半身だ。球速もすべての球種で5キロ前後速くなり、バージョンアップしたことがはた目にも分かる。
「日本には投手は走って下半身を鍛え、上半身はあまりいじらないという常識がある。僕もそう思っていたが、出力を上げるにはバランス良く鍛える方がいいと考えを改めた」。きっかけはダルビッシュ有(カブス)との出会いだ。
トレーニングや栄養についての考え方を聞いてみたいと昨年12月、知人を介して米国に赴いた。しかし最大の収穫はダルビッシュの柔軟で貪欲な姿勢に刺激を受けたことだった。
「あれほどの選手なのに頑固じゃない。確固たる持論があるというより、野球人として知識を広げ、パフォーマンスを良くすることを常に考えている。僕も帰国後は自分で勉強するようになりました」
■外部のトレーナーから"変化球"の助言
千賀自身、似たような発想の持ち主だ。駆け出し時代からオフには野球界の外部のトレーナーに師事する。「普通のコーチでは言わないような"変化球"の助言をくれる。『何それ?』みたいなことが多いんですが、とりあえずやってみる。最初は一切入らなかったストライクをとりあえず投げられるようにしてもらいましたね」
消えるような大きな落差で「お化け」と呼ばれる代名詞のフォークボールはプロ2年目のオフ、自主トレを共にした吉見一起(中日)から吸収した。
千賀が入団した2010年のスカウト部長で現在は2軍監督の小川一夫が語る。「体が大きい、足が速い、肩が強いというのは誰が見ても分かる。性格や頭脳を見抜いてこそプロのスカウト。千賀にもそういう資質があったから、あれだけの投手になれた」。無名の右腕を特別な地位に押し上げたのは「剛」の投球スタイルと対照的な「柔」の精神だった。=敬称略
(吉野浩一郎)