GMとJR九州がみせた覚悟(一目均衡)
編集委員 西條都夫
ゴールドマン・サックス証券の持田昌典社長は最近のニューヨーク出張で目の回るような忙しさを経験した。ヘッジファンドや機関投資家から「最近の日本企業の動向を知りたい」と要請され、1日で8社の投資家を訪ねる過密日程を組んだからだ。
今なぜ外国人投資家が日本に熱い視線を注ぐのか。「日本にはグローバル企業や独自の技術を持った企業が多く、株式市場の流動性も世界有数。国そのものの政治的、法的安定感も高く、安心して投資できる」と持田氏は言う。
加えて「彼らの背中を最後に押したのが、過去数年の日本政府の株主重視政策で、これが決定的だった」。コーポレートガバナンス・コードなどの導入で、無視されがちだった株主の声に企業も正面から向き合わざるを得なくなった。「外資が日本株を買い進める動きは今後も続く」というのが持田氏の見方だ。
外国人投資家が増えれば、経営と株主の間の緊張関係も高まる。LIXILグループの経営トップ交代について、米英の機関投資家が反対の声を上げた。東芝やオリンパスは取締役に海外ファンドと関係の深い人物を受け入れる。こうした事態は多くの日本企業にとって、ますます他人事ではなくなるだろう。そんな時代に問われるのは、株主に相対する経営者の覚悟と確信である。
その点で素晴らしいと感じた例を2つ挙げてみたい。1つは会社初の女性最高経営責任者(CEO)になった米ゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ氏だ。
2017年に米著名投資家のデイビッド・アインホーン氏が配当の強化や取締役派遣要求を突き付けたが、GM経営陣は最終的にこれを拒否。株主総会でアインホーン氏の要求を退けた。
この時バーラCEOが強調したのが、長期戦略による持続的成長のビジョンだ。インドなどの赤字市場から撤退する一方で、自動運転や電気自動車に力を注ぐ。そんな主張に多数の株主が賛同し、目先のリターンを追う短期主義に勝った。自動車アナリストの中西孝樹氏は「この件で機関投資家からの評価が急上昇し、バーラ体制への信任が社内外で高まった」という。
もう1つはJR九州だ。16年に上場した同社は米ファンドのファーツリー・パートナーズから自社株買いなどの株主提案を受けたが、同社取締役会は先週、これを拒否することを決めた。その判断の当否はさておき、同社の青柳俊彦社長は会見で「外資規制の導入といった庇護(ひご)策を政府に求めることはしない」といい、自力で事態の収拾にあたると強調した。
これは当然といえば当然の言葉だが、これまで日本空港ビルデングやJパワーなど公共性の高い企業がモノ言う株主の攻勢にさらされた際には日本政府が介入を試みた実例がある。上場企業の経営者なら政府やその他の第三者に頼らず、株主に自らの経営方針を受け入れてもらうよう説得しないといけない。その覚悟が光った青柳発言だった。