「所有者不明土地」解消へ一歩 法成立で一部売却可能に
再開発など活用に道
所有者不明の土地を一定の条件で売却できるようにする法律が17日の参院本会議で成立した。登記制度の不備などで増えてきた所有者不明土地は2040年には北海道の面積に迫る見通し。再開発などの妨げとなってきたが、法整備でようやく自治体や民間による活用の可能性が広がった。だが今後、大量の土地相続が見込まれており、解消への道はまだ一歩を踏み出したばかりだ。
「大きな進展ではあるが、全て解決というわけではない」。山下貴司法相は17日の閣議後の記者会見でこう述べた。この後の参院本会議で所有者のわからない土地を一定の条件で売却できるようにする法律が成立した。
所有者不明土地とは、不動産登記簿だけで所有者が判明しないか、連絡がつかない土地のこと。発生する大きな原因は相続していなかったり、相続に伴う登記をしていないケースだ。相続後の管理などの手間を嫌いあえて登記しないケースなどが問題になっている。「相続で700人の共有となり、そのうち約10人の所在地が不明」「所有者の住所が満州国」などの事例もある。
所有者不明土地問題研究会(座長・増田寛也東大公共政策大学院客員教授)による推計では、16年時点の所有者不明土地は全国に410万ヘクタールあるとされ、九州本島の面積約370万ヘクタールを上回る。今後、手を打たなければ40年までに合計720万ヘクタールに膨らむ見通しだ。
土地の所有者がわからないことによる弊害は大きい。公共事業や再開発に向けた用地取得や徴税の妨げとなる。空き地の管理にも支障が生じ、危険な家屋などがある場合は災害時のリスクともなる。土地が利用できないことによる機会損失や所有者を探すコスト、税の滞納などによる経済的損失は、17~40年の累計で少なくとも約6兆円にのぼるとの推計もある。
今回の法律の対象は、不動産登記簿に所有者の氏名や住所が正常に記録されていない土地だ。住所の記載がなかったり所有者欄に「ほか何名」と記載されたりする場合もある。こうした書き方は明治時代の旧土地台帳で認められていた。1970年ごろに登記簿に一本化された後も引き継がれ、今も温存されている。
登記官に旧土地台帳を調査する権限などを与え、所有者がわかれば登記官が登記を変更できる。調べてもわからなければ、土地を利用したい自治体や企業の申し立てで裁判所が管理者を選び、売却できるようにする。
ただ、今回の条件を満たす土地は全国の1%程度にとどまる。膨大な所有者不明土地問題の解消へのゴールはなお遠い。
今後の焦点は、所有者不明土地の「予備軍」の防止対策と、すでにある不明土地の管理・活用法の策定となる。法制審議会(法相の諮問機関)の部会では、相続登記の義務化や土地所有権の放棄などの議論が進む。相続で共有者が増えた土地を一定の条件で売却・活用できる方策も検討中だ。所在のわからない共有者に公告する方法や持ち分にあたる金額を供託し、共有関係を解消する方法などがある。
法制審の部会は3月から議論を始めており、21日には第3回会合を開く。ただ、所有権や共有制度といった民法の基本に関わる制度変更になるため「結論までは時間がかかる」(法務省幹部)という。
空き家対策で先行する英国では、一定の手続きを経て自治体が利用権を収用できる権限の強い制度がある。空き家を放置する所有者への抑止力にもなっているとされ、日本での対策にも応用できるとの指摘もある。