米、中国に短期決戦迫る「最強カード」
ファーウェイに禁輸措置発令
【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権は15日、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への事実上の輸出禁止措置を発令し、貿易戦争で妥協を拒む中国に強い圧力をかけた。成長著しいファーウェイは、中国の習近平(シー・ジンピン)政権が重点育成するハイテク分野の基幹企業だ。同社の経営を直撃する「米国側の最強カード」は、中国側を再び追い詰める材料になる。
米政権は2018年4月にも中国通信大手、中興通訊(ZTE)に制裁を課し、輸出規制を敷いて経営危機に追い込んだ。ファーウェイの売上高はZTEの5倍で、米国製部品を年100億ドル(約1兆1千億円)規模で購入しているとされる。
ファーウェイも米国の禁輸措置をにらんで、基幹部材を内製化したり、調達網を日欧などに広げたりしている。それでも高性能の米国製の半導体や基本ソフト(OS)が使えなくなる禁輸措置は中国のハイテク企業の弱点を突くもので、習政権に譲歩を強く迫る「最強カードの一つ」(米中交渉筋)だ。
米中は18年12月の首脳会談で貿易問題の打開策を探ると決め、閣僚級協議を続けてきた。150ページにわたる合意文書を作成し始めたが、5月に中国側が産業補助金の見直しなどを突然拒み、最終盤で物別れに終わった。米国は中国製品の関税引き上げに動いたが、トランプ氏はなお「中国が約束を破った」と強い不満を抱いており、15日の商務省の声明文にもファーウェイへの措置を「トランプ大統領の指示」とあえて明記した。
18年4月に制裁を受けたZTEは携帯電話などの生産ができなくなり「習氏がトランプ氏に電話して、制裁解除を自ら頼み込んだ」(米中交渉筋)という。その直後、中国は米国から液化天然ガス(LNG)や農産物を大量に購入する貿易促進策を提示し、中国側がためらっていた通商交渉はそれをきっかけに事実上スタートした。トランプ氏の頭にはZTEの禁輸措置による成功体験が残っている。
トランプ政権はファーウェイ製品が「中国のスパイ活動に使われる」(ナバロ大統領補佐官)と危険視し、日本や欧州各国などに同社製品の排除を呼び掛けてきた。ただ、その包囲網づくりはドイツなどの同意が得られず想定通りには進んでいない。今回は一足飛びに輸出規制に踏み込み、同社の経営を真正面から揺さぶってハイテク分野の覇権争いで先手を取る狙いもある。
中国共産党系の新聞である環球時報の胡錫進総編集長は15日、ツイッターで毛沢東氏の著書を紹介して「敵を消耗させる戦略として中国でよく知られるのは持久戦だ」と主張した。その直後のトランプ氏の一撃は、力ずくで中国に短期決戦を迫るカードとなる。
ドナルド・トランプ元アメリカ大統領に関する最新ニュースを紹介します。11月の米大統領選挙で共和党の候補者として、バイデン大統領と再び対決します。「もしトラ」の世界はどうなるのか、など解説します。