米ロ、関係修復へ前途多難 外相会談で溝あらわ
【ワシントン=永沢毅】米国とロシアが関係改善に向けて間合いを探っている。14日の外相会談では核軍縮を巡る新たな枠組みの構築に向けて協議を続けることで一致したが、イランやベネズエラなどその他の課題では溝が改めて浮き彫りになった。2018年7月以来となる首脳会談も実現は流動的で、米ロ関係は難路が続く。
ロシアのプーチン大統領は14日、同国南部のリゾート地ソチにポンペオ米国務長官を迎え、こう呼びかけた。「(3日に電話で話した)トランプ大統領は、米ロ関係を再構築したいと考えている印象を受けた」。モラー特別検察官によるロシア疑惑の捜査終結にもわざわざ言及し「関係を正常化する環境が整ってきた」と訴えた。
18年4月の国務長官就任後、今回が初の訪ロとなったポンペオ氏。ロシアのラブロフ外相とは6日にフィンランドで会談したばかりだが、14日は米ロ外相会談に続き、プーチン氏とも1時間半面会した。短期間での異例の連続会談は、関係改善に向けた米ロ首脳の意思を反映している。
トランプ氏はかねて北朝鮮やシリアなど様々な課題を解決するには、ロシアとの協力が不可欠と訴えてきた。ロシア疑惑の捜査で16年大統領選での自らの陣営とロシアの共謀が「シロ」と認定された今こそ関係を仕切り直す好機とみて、ポンペオ氏をロシアに送り込んだ。
トランプ政権下で強化が続いた対ロ経済制裁に風穴を開けたいプーチン氏にとっても、関係修復は歓迎だ。米国との交渉で「大国」を内外に印象づけて国際的な影響力の維持につなげる狙いがある。
ただ、14日の米ロ外相会談後の共同記者会見では、個別テーマで両国の対立がことごとくあらわになった。「多くの意見の違いがある」。イラン核合意の順守を求めるラブロフ氏がこう言えば、ポンペオ氏は「イランが普通の国として振る舞うよう圧力をかける」として米国による核合意の破棄を正当化した。
政情の混乱が続くベネズエラに関しても、ポンペオ氏が「意見の不一致がある」と前置きして「ロシアがマドゥロ現政権への支援をやめるよう望む」と表明。これに対しラブロフ氏は米が支援する野党指導者のグアイド国会議長こそ現政権へのクーデターを試みていると一蹴。「民主主義は武力では実現しない」と断じた。
「私たちが協力し、生産的な取り組みができることがある」。ポンペオ氏はプーチン氏との会談でこう述べ、核軍縮を含む「戦略的安定」や北朝鮮の非核化に言及した。中距離核戦力(INF)廃棄条約の8月失効をにらみ、新たな核軍縮の枠組みを話しあう協議を数週間内に開いて接点を探る見通しだ。
ただ、ラブロフ氏は北朝鮮問題に関し非核化に向けた米朝対話の継続を支持すると明言しながらも「非核化は朝鮮半島全体を対象とすべきだ」とも語った。これは米軍による韓国や日本への「核の傘」の提供をやめるよう求めるもので、将来の在韓米軍の撤退論につながりかねない考え方だ。米国には到底受け入れられない。
当面の焦点は、米ロ首脳会談がいつ実現するかだ。トランプ氏は6月末に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議での会談に意欲を示している。ロシアのウシャコフ大統領補佐官は14日「立ち話でもいいし、徹底的な議論のために座ることもできる。全ては米国次第だ」と語った。
2018年11月末にアルゼンチンで予定していた米ロ首脳会談を米国が一方的にキャンセルしたのは、ロシアが拿捕(だほ)したウクライナ艦船と乗組員をウクライナに返還していないのが理由だった。実はこの問題は今も解決していない。
首脳会談の条件を記者団から問われたポンペオ氏は「ホワイトハウスに聞いてほしい」と述べるにとどめた。米政権内では安全保障の専門家を中心に、具体的な成果が見通せない中での米ロの接近に慎重論がある。米議会では党派を問わず、ロシアが20年大統領選への介入を再び試みることへの警戒感が根強い。核軍縮などでの進展にどれだけ道筋をつけられるかが関係修復のカギを握ることになる。