道頓堀物語(下)「いつでもエンタメ」発信
時を刻む
大阪・道頓堀でグリコの看板に次ぐ人気を誇るのが、ロイド眼鏡と動く眉毛がトレードマークの太鼓たたき人形「くいだおれ太郎」だ。太郎が出迎える「中座くいだおれビル」地下1階に、旅行大手のJTBが昨年開設したエンターテインメント情報の発信拠点がある。この施設が6月下旬をメドに、エンタメのライブ拠点に生まれ変わる。
エンタメ情報の発信拠点「とんぼりベースCafe&Info」は敷地面積183平方メートル。正面にバーカウンターがあり、テーブルとソファや椅子が配置されている。座席数は約50。周囲には券売機、道頓堀情報のタッチパネル「トンボリグラフィー」、スクリーンなどが並ぶ。JTBはここに新たに舞台を設置。6月下旬から「大阪ナイトレボリューション」と題した公演を毎週末に行う計画だ。午後7時台以降2回にわたり、ダンス、レビュー、マジック、大道芸などのライブを発信するという。
情報提供増やす
「外国人や若者にとって道頓堀のイメージは『食と買い物』。浪花五座に根差したエンタメの街であることをもっとアピールしたい」と話すのはJTB西日本インバウンド部の大迫義矢営業開発プロデューサーだ。いつでも気軽にエンタメを楽しめる場をつくり、「道頓堀といえばエンタメ」のイメージ定着を狙う。
情報発信拠点の機能も強化する。タッチパネル「トンボリグラフィー」のトップ画面の「遊ぶ・観(み)る」には劇場案内があるが、今後は周辺の元気な小劇場、小ホールにも対象を広げる。「トンボリグラフィー」の有料アプリ化も検討中だ。
実際、道頓堀周辺には斬新な企画に挑む小劇場、小ホールがある。新感覚のミュージカル「GOTTA」で話題を集めるのが「Cafe&Info」と同じビルの地下1階にある「道頓堀ZAZA」だ。「GOTTA」は歌舞伎役者に扮(ふん)した主役と和太鼓奏者、三味線奏者らが協力し怪物と戦うストーリー。プロジェクションマッピングを駆使し、タップダンスやレビューも採り入れた。現在は日中の公演のみだが、今後は夜の公演の定例化を計画中だ。
質の高い企画で定評のあるトリイホールは上方文化講座を行う。7月14日にまず「幕末から関ケ原への回帰」をテーマに講談師の旭堂南龍がコーディネーターを務めるシンポジウムを開く。落語では5月1日に桂米團治が桂よね吉との「ふたり会」を初めて行った。
小劇場、小ホールで活躍するエンターテイナーが、道頓堀で人気の船のクルーズに乗り込む試みも始まった。「GOTTA」の和太鼓奏者は土日祝日にクルーズに乗船。若手落語家が案内する「なにわ探検クルーズ」という企画も人気だ。
「まとめ役必要」
大阪観光局マーケティング戦略室の木村絵里担当部長は「大阪は人とのふれ合いが魅力の街。エンターテイナーが観光や飲食店を案内する企画を増やせば、大阪らしいエンタメの街づくりができる」と指摘する。
「道頓堀再生の動きをまとめる総合プロデューサーが必要」というのは地元の約140店が加盟する道頓堀商店会の上山勝也会長だ。「大阪・関西万博でインバウンドはさらに増えそう。『エンタメの街』のグランドデザインを未来に向けてしっかりと描きたい」
元和元年(1615年)の道頓堀開削から元禄年間(1688~1704年)の上方文化最盛期までに約80年の時を刻んだ。上方文化再生への動きが出始めた令和元年。小さな芽を粘り強く育てれば、道頓堀がいつか日本文化の中心として再び花開く時がくるかもしれない。(浜部貴司)
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