医のシリコンバレーへ パソナグループ代表 南部靖之さん
未来像
■主婦などの就職を支援しようと、大阪市でテンポラリーセンター(現パソナグループ)を立ち上げた南部靖之さん(67)。関西経済を盛り上げるには官民が手を組み、人材を呼び込む土壌を醸成する必要があると力を込める。
関西は歴史が深く、浄瑠璃などの文化もある魅力的な地域だ。それでも人材が首都圏に流出するのは仕事がないからだ。仕事さえあれば、東京で満員電車に揺られ、高い家賃を支払う人々が必ず戻ってくる。
家電や繊維など伝統的に関西で栄えてきた産業が衰退したいま、仕事を生むには新しい成長の柱が必要だ。若い起業家を呼び込み、関西発のベンチャー企業を育てたい。関西は土地代や人件費が東京よりも安い。ある意味では条件が整っている。自治体も起業家向けで税を優遇するなど、Uターン・Iターンを促す仕組みを作ってほしい。
■関西は米シリコンバレーの「医療・医薬」版となる可能性を秘める。
ベンチャーといっても米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のようなテック系企業である必要はない。関西発ベンチャーは「健康」に関連した企業が中心になると感じている。京都大学を中心にiPS細胞の研究が進んでいる。大学発創薬ベンチャーも育ち、今後は医療ツーリズムなども盛り上がりそうだ。
例えば、関西国際空港を経由して来日してきた中国や台湾の糖尿病患者を、研究が日本で一番進んでいるとされる徳島大学に送り込む。関西はいわばゲートウェイの役割を果たすことになる。産学連携で人材を呼び込み、米シリコンバレーの医療・医薬版を目指すべきだろう。
訪日客は重要なビジネスチャンスだ。「百舌鳥(もず)・古市古墳群」など関西では世界遺産に認定される史跡が増えている。(米エアビーアンドビーのような)旅行ベンチャーが生まれる可能性も大いにあると考えている。
課題もある。これだけ多くの訪日客が大阪や京都を訪れているにもかかわらず、神戸は盛り上がりに欠ける。人気の観光地から他地域に訪日客を送り込む仕組みが必要だ。個人的には瀬戸内海の島々などは魅力的だと考える。地中海のように観光客を引き付けるクルーズ船を出せないだろうか。
観光客が楽しめるコンテンツもまだ足りない。この点でうまくいっていると感じるのがインドネシア・バリだ。何もない空間にホテルや飲食店などを新設し、20~30年の間に世界中から旅行客が訪れる観光地に変わった。関西には歴史や文化などの基盤はそろっている。新しいコンテンツを生み出し、交流サイト(SNS)などを通して世界に向けて周知する必要がある。
■人材を誘致し産業を育てることが、さらに人材を呼び込む循環を生む。
育った企業が老若男女幅広い人材を雇用する制度を作ることだ。私はかねて同一賃金・同一労働を唱えてきた。終身雇用で働けなくとも不利益な立場にならないようにすることが、豊かな社会につながると信じている。フリーランスなど自由な働き方が広がる現代ならなおのことだ。
1976年に当社の前身を立ち上げた私と、いまの起業家は全く違う状況にいる。当時は卒業イコール就職。それも東証1部上場の大企業が1番で入れなかった人が中小企業に勤める仕組みだった。起業の道を選んだ私は「就職できなかった」という目で世間からみられた。今は学生ベンチャーというだけで何だかかっこいい響きだ。女性の社会進出も進み、会社を興しやすい土壌は確実にできている。関西もこのチャンスを確実につかんでほしい。
(渡辺夏奈)
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