過度の中国依存是正へ パキスタン IMF支援60億ドル
【ニューデリー=黒沼勇史】パキスタンが国際通貨基金(IMF)から約60億ドル(約6600億円)の財政支援を受けることが決まった。同国は中国主導のインフラ事業で国際収支が悪化し、外貨不足の危機に直面する。財政赤字も膨らみ、IMF支援と引き換えに構造改革に乗り出す。ただ改革の副作用が経済を直撃すればカーン政権の求心力が低下しかねず、南アジア情勢が不安定になる懸念もある。
IMFは12日の声明で、拡大信用供与(EFF)と呼ぶ支援枠を用い、39カ月かけて60億ドルを融資すると公表した。パキスタンがIMF支援を受けるのは13回目。2013~16年にも61億ドルのEFFを受け、外貨準備高を積み増していた。
18年8月に発足したカーン政権がIMFに支援を仰ぐのは、外貨不足への対策が喫緊の課題だからだ。中央銀行によると、16年11月に190億ドルを超えていた外貨準備高は3日時点で89億ドルにとどまる。必要最低限とされる輸入額の3カ月分に届いていない。
外貨急減の主因は、前政権が15年に始めた中国の広域経済圏構想「一帯一路」の関連事業だ。国土を縦断する「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)のインフラ整備で総事業費は約600億ドルに上る。これに伴い中国からの輸入が急増し、貿易赤字が拡大した。対外債務も1000億ドルに迫り、6~12%を占めるとされる対中債務が負担となっている。
CPECはインフラ投資を促し、パキスタン経済は5%台の高成長が続いたが、ここに来て息切れしている。18年度(18年7月~19年6月)は3%程度へ減速する見通しだ。11日にはCPECの最南端にあたる港湾都市グワダルの高級ホテルが、反中を掲げる武装組織に襲撃され、5人が死亡した。
パキスタンは今回、IMF支援の条件として、基礎的財政収支赤字を19年度に国内総生産(GDP)比で0.6%に抑えると約束した。詳細は明らかではないが、税制、電力、公的企業の改革も受け入れた。
これらの財政健全化策には既に国内から懸念の声が上がる。ミフタ・イスマイル元投資庁長官は取材に対し、18年度の基礎的財政収支赤字の見込みをGDPの2.5%程度とし「赤字縮小には税収の大幅増が不可欠で、幅広い痛みを伴い、失業やインフレを生む」と指摘する。
IMF支援が、パキスタンの中国との関係にどう響くかは不透明だ。パキスタンは「中パの基礎的な情報をIMFに提供したが、覚書など具体的な合意をIMFと共有していない」(現地ジャーナリスト)との分析もある。経済の中国依存が続けば、貿易赤字の膨張に歯止めがきかず、IMF支援も焼け石に水となるリスクがある。
政治リスクも懸案だ。カーン首相は18年7月の総選挙を前に「IMFに支援を仰ぐつもりはない」と演説していた。就任後もサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、中国への支援要請を優先し計91億ドルの支援を獲得したが、外貨準備高は積み上がらず、IMFに頼らざるを得なくなった。痛みを伴う構造改革を断行し政権基盤が揺らげば、対立する隣国インドやアフガニスタンとの関係悪化の一因にもなりかねない。