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福島廃炉の最前線 不可能に立つ

仮想現実が拓く世界(2)

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仮想現実(VR)は「人間が立ち入れない」空間を可視化できる。危険な場所や地底を再現したVRを使ってロボットの遠隔操作の訓練が行われ、原子力発電所の廃炉作業や地下資源探査に役立っている。医療では「失敗が許されない」手術のシミュレーションに利用され、人手不足に悩む製造業や農業では熟練技術やノウハウの伝承ツールとして使われている。仮想現実が現実世界の様々な分野で「制約」を克服しようとしている。

真っ暗な室内に懐中電灯を照らすと、目の前に赤茶色にさび付き塗装がはげた配管や金属製の足場、手すりが現れる。専用のコントローラーを手で持ち、指でスティックを倒すとその方向に進んでいるようにまわりの景色がスムーズにうつり変わっていく。まるで工事現場か廃虚の中にいるかのような錯覚に陥る。ただ、実際に自分自身が歩き回ったりするわけではないため、移りゆく景色を眺めながら長時間操作をしていると少し酔いそうになる。

デブリの取り出し技術も磨く

ここは東京電力福島第1原発の廃炉作業を進める拠点として2016年4月から本格運用が始まった日本原子力研究開発機構の「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県楢葉町)。約100億円をかけて廃炉に向けたロボットの遠隔技術開発を目的に整備され、原発事故後の第1原発の原子炉建屋内を再現したVRシステム、実物大の容器の一部を再現した試験体やロボット試験用水槽などがある。

廃炉作業は人類が今まで経験したことがない、多くの未知の困難が待ち受けている。政府と東電の工程表によると、廃炉は事故後30~40年で完了する見通しだが、機器のトラブルなどですでに計画から数年遅れている。原発敷地内は除染が進み、防護服が不要になった場所もあるが、建屋内は依然として放射線量が非常に高いうえ、障害物が散乱し、廃炉作業を阻んでいる。現状では建屋内で人間が作業できない場所もあり、VRシステムは現実世界では不可能な建屋内での作業の訓練を可能にする。

東電は今年4月から、福島第1原発3号機の使用済み核燃料プールから燃料の取り出し作業を始めた。クレーンを遠隔操作して建屋上部にあるプール内の566体を20年度中に取り出す予定だ。3号機の建屋は水素爆発で損傷し、再び大きな地震や津波に襲われると建物や機器が壊れる懸念がある。プールからの燃料取り出しは廃炉作業を本格化させるうえで重要な作業の一つだ。

事故を起こした1~4号機のうち、1号機のプールには392体、2号機には615体の燃料がある。1号機は水素爆発で生じたがれきの撤去に苦戦している。2号機は建屋内に放射性物質が堆積し放射線量が高く、23年度の取り出し開始に向け慎重な作業が続く。4号機は炉心溶融はなくプールからの燃料取り出しは終えている。

ただ、廃炉で最も難しいとされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは始まってすらいない。炉心溶融した1~3号機は、燃料を入れて核反応させる圧力容器やその外側の格納容器の底にデブリがたまっている。その量は推定で約880トンにのぼる。いずれかで21年にデブリの取り出しを始める予定で、2号機の可能性が高いという。デブリの取り出し技術の実験も楢葉遠隔技術開発センターで行われている。

同センターのVRシステムの目的は廃炉作業をできる限り効率的にし、作業員の被曝(ひばく)をより低く抑えることもある。石原正博センター長は「VRシステムにより機器の配置などを確認しながら詳細な作業計画が立案できる。廃炉作業の安全性向上や効率化に役立つ」と話す。国内では既存設備の高経年化のため廃炉を決定したり検討したりする原発も増えており、廃炉作業を熟知した人材の育成も喫緊の課題で、同センターの役割が重要になっている。

実際にVRを活用した訓練は医療分野での導入が進んでいる。「これはすごい、血管の位置も分かりやすい」。脳神経外科東横浜病院(横浜市)の手術室で、ゴーグルを装着した郭樟吾副院長はレンズ越しの光景に衝撃を受けた。郭副院長の目には、2日後に脳動脈瘤(りゅう)の手術を受ける60代女性の患部がその場で浮かんでいるように映っている。

浮かぶ臓器「誤差まったくない」

マイクロソフトのゴーグルでホログラフィーが体験できるシステムをベンチャー企業「ホロアイズ」(東京・港)が開発し、事前に患者のコンピューター断層撮影装置(CT)画像をもとに患部のホログラムを作成した。ゴーグルをつけた医師間で脳や血管、動脈瘤の位置などを共有し、事前にどういう工程で手術を進めるかシミュレーションする。患部の血管は色分けすることもでき、実際の手術ではゴーグルで見える患部を実際の患者の体に重ねて使用する。今春時点で全国約50の医療機関が取り入れている。

脳の手術でこのゴーグルを使うのは東横浜病院が初めて。体の中でもとくに脳内は構造が複雑で、脳で動脈瘤がある血管が隠れて見えないケースもある。今まではCT画像などを見ながら手術を進めていたが、ゴーグルをつけることで患者から目を離さなくても患部が手に取るように分かるようになったという。手術を終えた郭副院長は「(VRと実際の患部の構造に)もう少し誤差があると思ったが、まったくなかった」と話した。

手術などの医療行為には一つのミスも許されないが、実際に人間の体を使った訓練は当然不可能だ。医師は時間をかけて医療技術を学び、身に付ける。郭副院長は「自分が十数年かけて身に付けた技術を、ゴーグルを使えばこれからの若い医師は数年でマスターできるようになるかもしれない」と語る。患部の構造を正確に把握できれば手術の安全性の向上にもつながり「どこを切ればなにが出てくるか把握できるので、医師の精神的な負担も軽減する」という。

自らも外科医でホロアイズの杉本真樹・最高執行責任者(COO)は「VRによって平面的な画面上の3次元映像ではなく、患者の臓器が自分の周りの空間に浮かび上がり、あらゆる方向から回り込んで見ることができる。例えば、平面の地図よりも、そっくりな地形のVR空間を自由に歩き回る方が、理解しやすいようなものだ」と表現する。ゴーグルの活用で期待される効果の一つは経験の浅い若手医師への技術の伝承だ。杉本COOは「医療界ではベテラン医師の背中を見て学ぶしかない暗黙知ばかりだが、経験が浅くてもゴーグルによるVR体験をすれば、短時間で高度な技術を追体験し、直感的に体で覚える手助けになる。医療界の既存概念のディスラプション(創造的崩壊)につながる」と強調する。

背中を見て学ぶ時代は終わった

令和時代は高齢化が加速度的に進む。現在と同程度の出生率が続いた場合、2036年には3人に1人が65歳以上となる。一方、15~64歳の生産年齢人口は30年後の49年に約5300万人と今から約3割減る。人口減少と高齢化で現場の熟練者不足が深刻化するなか、熟練者の技術やノウハウを若い世代がしっかりと受け継ぐための人材教育が遅れている。

これまで企業は、技術やノウハウの伝承では熟練者による指導など職場内訓練(OJT)に力を入れてきたが、熟練者が大量に引退する時代ではノウハウなどの暗黙知についてはVRを使ってデジタル化し、伝承しなければならない。政府も製造業の現状分析や課題をまとめた「2018年版ものづくり白書」の中で「属人的な知見をデジタル化・体系化し、組織として資産化する力が求められている」と強調する。

そのツールとして効果的なVRは、場所や距離、時間、経験を超えて様々な問題に対応できる可能性を秘めている。建設業の現場ではVRを活用した建機の無人遠隔操作への期待が大きい。遠隔操作は以前からある試みだが、VRと大容量で遅延なく情報を送れる次世代の高速通信規格「5G」との組み合わせで本格導入が可能になる。例えば、作業員が都市部にいながら遠隔地の山間部での作業ができ、監督者はVRと現場の状況を比べることでリアルタイムで複数の場所をチェックできるようになるという。

米フォード・モーターの大衆車「T型フォード」は製造ラインに立つ労働者の仕事を細分化し単純にすることで、熟練工に頼らない大量生産を可能にした。この生産革命が20世紀の工業化社会を導いた。あらゆる仕事で誰もが「熟練の技」を素早く身につけられるようになった時、経済発展のメカニズムは再び変わるかもしれない。VRの進化はそんな未来を予感させる。

文 石原潤、写真 斎藤一美

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先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。

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