サニブラウン9秒99 長身生かした「ストライド型」
陸上短距離男子のサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)が11日、米アーカンソー州フェイエットビルで行われた大学南東地区選手権の100メートル決勝で日本歴代2位となる9秒99(追い風1.8メートル)をマークし、日本人で2人目の9秒台に突入した。桐生祥秀(日本生命)が2017年に出した9秒98の日本記録には及ばなかったが、自己ベストを0秒06更新。20年東京五輪の参加標準記録(10秒05)を突破した。
拠点を米国に移して2年目。「10秒の壁」を破るのも時間の問題と思われていた期待の20歳が、成長の跡を示した。決勝では横一線で飛び出すと中盤から体ひとつ抜けだした。もともとスタートを課題としていたが、まずまずの飛び出しでリズムよく脚をさばき、一歩一歩加速。持ち味である後半型のレース展開で強さを見せた。
桐生や山県亮太(セイコー)が1秒間に最大5歩程度進む脚の回転の速さを武器にしているのに対し、188センチと長身のサニブラウンは「ストライド型」。ピッチが劣るぶん、一歩の幅が大きく、「ピッチ型」の選手より100メートルを少ない歩数で駆け抜ける。元日本陸連科学委員会委員長の阿江通良・日体大教授は「脚を振るために必要な尻の筋肉が発達している。背も高いからストライドを出しやすく、脚を前に持ってきやすい」と特徴を挙げる。
ガーナ人の父と日本人の母を持つサニブラウンは将来を嘱望される存在だった。東京・城西高時代の15年世界ユース選手権で100メートル、200メートルの2冠を獲得。特に200メートルはウサイン・ボルト(ジャマイカ)の大会記録を更新する好タイムだった。同年の世界選手権に初出場し、続く17年世界選手権では大会史上最年少の18歳5カ月で200メートル決勝に進出するなど世界の舞台でも実績を挙げてきた。
高校卒業後は、設備やスタッフ、学業面のサポートなど競技に集中できる環境面の充実を理由にフロリダ大に進学。昨季は右脚を痛めてシーズンを棒に振ったが、ついに異国での強化が結実。今季3戦目で9秒台の仲間入りを果たした。
以前から9秒台について「出るときは出るかな。そのうち出せれば」と語っていた。「最終的に世界記録を更新できたらな、という大きな目標を持ってやっています」と口にしたこともある逸材。まだ発展途上で、その伸びしろは計り知れない。今秋の世界選手権(ドーハ)、来年の東京五輪に向けて期待が膨らむ。(渡辺岳史)