米、北朝鮮への制裁圧力緩めず 「弾道ミサイル」断定
【ワシントン=永沢毅、ソウル=恩地洋介】日米の防衛当局が北朝鮮が9日発射した飛翔(ひしょう)体を「短距離弾道ミサイル」と断定し、今回の挑発行為が国連安全保障理事会の制裁決議に違反する可能性が強まった。トランプ米政権は制裁解除には応じない構えを崩さず、米の譲歩を求める北朝鮮との「チキンゲーム」の様相を呈している。膠着状態にある非核化交渉の再開はさらに遠のきつつある。
米国防総省によると、北朝鮮が米東部時間9日未明に発射したのは複数の弾道ミサイルで、北西部から東方へ300キロメートル以上飛んで海上に落下したという。弾道ミサイルはロケットエンジンを用いて重量物を遠くに発射でき、核・生物・化学兵器の運搬手段として使われる。ジェットエンジンを使い低空飛行する巡航ミサイルと区別される。
北朝鮮が「新型の戦術誘導兵器」と呼ぶこの短距離弾道ミサイルは、ロシアの「イスカンデル」の模倣との見方が強い。低高度を飛ぶなど一般的な弾道ミサイルとは異なる軌道を描くため迎撃が難しく、事実であれば韓国や在韓米軍への新たな脅威となる。
米シンクタンク、スティムソン・センターの北朝鮮専門家、ジェニー・タウン氏は「相次ぐ発射は非核化交渉の再開には明らかに障害だ」と指摘する。
米国も受け身に立つばかりではない。米司法省は9日、国連制裁が禁じる石炭輸出に関わったとして、北朝鮮の船舶を初めて差し押さえたことを明らかにした。西部カリフォルニア州の空軍基地では大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験も実施した。北朝鮮の飛翔体発射を踏まえ、米軍の抑止力をアピールした可能性がある。
米国は北朝鮮との対話の余地を残すため、今のところ国連安保理で北朝鮮の決議違反を追及する姿勢はみせていない。だが米国本土に届かない短距離だからといってミサイル発射を不問に付す姿勢を続ければ、射程に入る日本、韓国との溝が広がりかねない。ミサイル発射停止を成果として誇示してきたトランプ氏も顔に泥を塗られた格好だ。北朝鮮が挑発行為を続ければ米国の忍耐の限度を超え、制裁強化につながる公算も大きい。
外交筋によると、物別れに終わった2月の米朝首脳会談以降、北朝鮮は米国からの問い合わせに応じない状況が続いているという。米朝合意の1つである朝鮮戦争で亡くなった米兵の遺骨収集の協議も停滞し、当面は作業が進みそうにない。互いに譲歩を待つ米朝の我慢比べが続きそうだ。