日本の就労世代、デジタル技能の訓練不足 OECD報告書
【パリ=白石透冴】日本の就労世代はIT(情報技術)などの技能訓練が他国よりも不足し、国際的な競争で後れを取る可能性がある。経済協力開発機構(OECD)が9日公表した報告書で、日本の課題が浮き彫りになった。世界で急速なデジタル化が進み、就労者自身のIT能力が低ければ労働市場から締め出されるリスクが高まる。日本は職場のIT化も十分といえず、生涯学習などの環境整備が急務だ。
OECDが加盟36カ国を対象に、人工知能(AI)などの技術革新への対応状況などを調査し、「スキル・アウトルック2019」としてまとめた。報告書は、技術革新や巨大IT企業の台頭で労働環境が大きく変化していると指摘した。
工場の単純作業や企業の経理業務など縮小が避けられない職種も多い。報告書ではデジタル技術の進展はオフィス以外の場所で働くテレワークなどの労働環境の効率化につながると指摘。その一方で、個々人がデジタル化に対応できているかどうかによって「格差が深刻になる恐れがある」と警鐘を鳴らした。
個々の就労者の能力が企業や国家の競争力につながるとして、加盟各国は就労者が生涯学習に取り組みやすい環境を整える必要があると指摘した。就労者がデジタル化に適応できるように各国の積極的な対策を求めた。
プログラミングなどの情報通信技術(ICT)、コミュニケーション能力など具体例を列挙し、各国の対応状況についてもまとめた。日本はオンライン講座などで技能向上に取り組んでいる人の比率が36.6%と、OECDの平均(42%)を下回った。ニュージーランド(55.5%)や米国(52.9%)などと比べて見劣りし、民間を含めた講座の充実が課題だ。
日本に対しては、職場のデジタル化が遅れているとも言及。メールや表の作成、プログラムなどを職場でどれくらい使うかを指数化したランキングでも、日本は平均を下回り、オランダや米国、ドイツなどを下回った。
教育現場の課題も多い。日本は授業でタブレット端末などのIT機器を利用する割合は最低水準で、IT関連の訓練が必要な教員の割合は80%と最も高かった。欧米では初等教育の段階からプログラミングを授業に取り入れている学校もある。デジタル人材の育成強化に向けて、社会全体での取り組みが必要になる。
一方、報告書では日本に前向きな評価もしている。各国の教育水準を項目別にみると、日本は「学力が低い学生」の割合が5.6%、「デジタル技能が低い高齢層」が8.5%と加盟国で最も低いグループに入った。IT大手を抱える米国はそれぞれ13.5%と10.4%。韓国は7.7%、27.8%だった。
日本は基礎学力が確保され、ネット検索などの基本的なデジタル知識を持つ人材が多いことを示す。今後の取り組み次第ではAI社会の変化に相対的に対応しやすいともいえ、報告書は日本を「大きな潜在力がある」と一定の評価を下した。
報告書では生涯学習を促すことを目的に、各国の政府は資金援助や、職業訓練学校の設置など政策面での後押しをする必要があると結論付けた。