チョコとブリ、不思議な相性 酸化防ぎ変色抑える
餌の中にチョコレートを入れる。ポリフェノールの成分が、切り身にしたときの変色を抑える。水産商社の宇和島プロジェクト(愛媛県宇和島市)が、そんなブリの養殖を始めた。これまで「みかんブリ」を米国やシンガポールなどに輸出してきたが、付加価値を高める新たな方法に挑む。
「見た目がきれいで、何となくまろやか」。2月、米ロサンゼルスのすし店で、来店客がこう話した。宇和島プロジェクトの木和田権一社長が、店に持ち込んだ新商品「チョコブリ」だ。スタッフは「まとまった量がほしい」と話した。
宇和島プロジェクトは同月、飼料にチョコレートを配合したチョコブリを発売した。冷蔵のブリでは通常、生け締め後、赤みのある部分「血合い」が2日ほどで茶色に変わる。チョコブリは5日たっても変色しない。冷凍の場合は、解凍後2時間程度で変色してしまうところが「最低1日は持つ」と、木和田社長は説明する。
ブリは他の魚に比べ血合いの変色が早い。共同開発した愛媛県によると、変色は筋肉の色素であるミオグロビンが酸化して発生する。チョコレートのポリフェノールが、この酸化を抑えるという。
「チョコ風味を持たせる狙いだった」。木和田社長は開発のきっかけを振り返る。ブリは餌の食いつきが悪い時、ハチミツなど甘みのある原料を混ぜる。これにヒントを得て、チョコが使えないか愛媛県に相談。チョコ会社がサンプルを提供し、2017年秋に開発に着手した。期待した効果は得られなかったが、切り身の変色が抑えられることを確かめ、同社と県は飼育方法の特許を出願した。
イオンや中四国地盤のスーパーであるフジ、回転ずしチェーン「無添くら寿司」などで発売し、5月までの予定で用意した8500匹は3週間で完売。次回の出荷は10月ごろの予定だ。
宇和島プロジェクトはみかんの搾りかすを飼料に混ぜる「みかんブリ」「みかん鯛(だい)」を台湾、中国、中東諸国にも輸出している。2018年9月期の売上高は27億円で、輸出は1割を占める。そこへチョコブリを追加する。
現在、米高級スーパーとプライベートブランドの商品化を検討中という。課題はコストだ。空輸は海上輸送の5倍はかかる。この取引では冷凍の海上輸送が条件となった。クリアできればスーパーの店頭で1日置くことができる。
そのためにこれからノウハウを築く。チョコブリは、冷蔵であれば出荷前の20~45日間、飼料にチョコを10%程度混ぜる。それが冷凍になると3~6カ月混ぜる期間が必要で、最適な冷凍温度を探る必要もある。米国の場合、一酸化炭素処理された切り身が流通しており、見た目に鮮やかだが風味に違和感があるという声もある。21年にチョコブリで20億円の売り上げを目標とし、半分は北米を中心に輸出で稼ぎたいという。(松山支局 棗田将吾)