スケール大きな「令和の由伸」 新時代のエース候補
愛知・東邦高が平成最初の甲子園大会優勝に続き、平成最後の栄冠にも輝いた選抜高校大会決勝が行われた4月3日、プロ野球でもファンの耳目を集める試合があった。オリックスの山本由伸(20)が本拠地、京セラドーム大阪でのソフトバンク戦に先発し、八回1死まで被安打ゼロの快投。安打を許しても乱れず、9回を被安打1、無失点で終えた。
味方打線も打てず0-0の引き分けに終わり、勝ち星はつかなかった。ただ、その後も6回4失点で敗戦投手になった18日の日本ハム戦を除けば、11日のロッテ戦で8回1失点(勝利投手)、25日のソフトバンク戦で8回無失点、5月2日のロッテ戦で8回1失点。ソフトバンクには17イニングで被安打わずか2の盤石ぶりで、同じ右腕の山岡泰輔と先発陣の両輪をなす活躍を見せている。
抜群の安定感もさることながら、この好成績を先発復帰1年目にマークしている事実にも驚かされる。宮崎・都城高からドラフト4位で入団した2017年は8月に1軍に昇格、プロ初勝利を含む5試合の登板はすべて先発だった。
2年目の昨季は、150キロ超の剛球や曲がりの鋭いスライダーを武器にシーズン途中からセットアッパーを担い、32ホールドと36ホールドポイント(HP)はともに宮西尚生(日本ハム)に次ぐリーグ2位。6月から7月にかけては15試合連続HPをマークした。新人王争いでは田中和基(楽天)に敗れたものの、パ・リーグの投手部門で最たる活躍をしたニューカマ-として広く名を売った。
■中継ぎからの華麗なる転身
抑えの増井浩俊につなぐ「八回の男」の地位を不動にした感があったが、本人はそこに安住する気はなかった。というのも、理想とする「いい意味で力が抜けている」程よい力感の球は「(ある程度の)球数を投げないと出てこない。1イニングだと出す前に終わってしまう」と山本。より輝ける場は先発との思いを強くし、18年シーズンが終わると早々に先発復帰の希望を口にした。
そのオフに金子弌大(現日本ハム)と西勇輝(現阪神)が相次いでチームを去り、どう穴を埋めるかで頭を悩ませていた首脳陣とすれば、山本の先発希望は願ったりかなったり。唯一の懸念材料が、長いイニングを投げるスタミナがあるかどうかだった。ただ、蓋を開けてみると、5月2日までの登板5試合のうち4試合で8イニング以上を投げ、失点は1以下。西村徳文監督らの心配は今のところ杞憂(きゆう)で済んでいる。
中継ぎからの華麗なる転身を果たせた理由は何か。本人が言うには「上半身で投げていた」1年目が終わり、程なくして始めた体幹トレーニングのたまものだという。多岐にわたるメニューでしっかり鍛えたおかげで、幹から生まれるパワーがスムーズに四肢に伝わり、全身を使って投げられるようになった。肩や肘の疲労は感じず、試合終盤でも楽に150キロ台が出ることについて「そのために1年目のオフからフォームも変えてきた。今は投げられて当然」と自信のほどを口にする。
8回を1失点に抑えた2日のロッテ戦は初回から能力の高さが光った。無死一塁から角中勝也の高く弾んだ打球をジャンプして捕り、両足を開いて着地した姿勢はそのまま送球体勢に。無駄のない身のこなしで素早く二塁に送球、併殺完成でピンチの芽を摘んだ。送球の正確さと合わせて、フィールディングでもレベルの高さを見せた。
続く中村奨吾には、ノーワインドアップから上げ幅を小さくした左足を素早く踏み出す変則クイックモーションでかく乱、153キロの速球で遊ゴロに仕留めた。左膝を腰の高さまで上げて2段モーション気味に投げる、ゆったりとしたフォームに慣れている中村奨からすれば、リリースのタイミングが大幅に早められた分、実際の球速よりさらに2~3キロ速く感じたのではないか。
岡山県出身の山本はこの日、中学時代に所属した東岡山ボーイズの選手ら約50人を球場に招待した。自らに白星はつかなかったものの雄姿を披露し、チームは延長十回2-1のサヨナラ勝ち。山本は「選手の皆さんはいいものを見られたのでは」と喜ぶとともに「これからいいお手本になれたら」と決意を語った。
天才的な打撃技術でならした高橋由伸・前巨人監督と同じ名でも注目される。「ヨシノブ」といえば今も高橋の印象が強いが、ここまでの活躍が今後も続けば、「平成の由伸」に代わって真っ先に山本を思い浮かべるファンも増えるはず。最速156キロの直球や150キロに迫るカットボールを駆使したスケールの大きい投球スタイルを武器に、球界を代表する投手に育つ可能性を秘める「令和の由伸」から目が離せない。
(合六謙二)