退位の日、皇居緊張の1日
30年余にわたる在位中、国民に寄り添って象徴の務めを果たしてきた天皇陛下が4月30日、退位し、上皇となられた。皇居で午前から始まった約200年ぶりの退位関連の儀式や行事は夜まで続いた。皇室や宮内庁の歴史的な1日を追った。
30日の退位の儀式は午前の宮中祭祀(さいし)から始まった。
「大事な日。きょう一日しっかりとやっていきたい」。30日午前9時15分、雨が降るなか、公用車で宮内庁に到着した山本信一郎長官は、緊張感を漂わせて3階の執務室に向かった。
午前9時17分には、5月1日に即位された新天皇陛下が車で赤坂御所(東京・港)を出て皇居に向けて出発。6分後に半蔵門を通って皇居に入られた。沿道の市民には、車窓からにこやかに手を振って会釈された。
皇居・宮中三殿で、最初の儀式「退位礼当日賢所大前の儀」が予定より3分遅れの午前10時3分に始まった。
直前に雨が上がり、日光がうっすらと差し込むなか、伝統装束を身にまとった上皇さまが、皇祖神を祭る賢所へゆっくりと歩みを進められた。8分後、拝礼を終えられて姿を見せた上皇さまは穏やかな表情だった。
上皇さまは、歴代の天皇や皇族の霊を祭る皇霊殿、神々を祭る神殿にも拝礼。新天皇陛下は上皇さまに続いてそれぞれ拝礼された。秋篠宮さまをはじめ皇族方や宮内庁幹部らが参列。宮中での祭祀は午前11時16分に滞りなく終わった。
一連の退位の儀式の締めくくりは国事行為「退位礼正殿の儀」。皇族を除き294人が参列した。午後4時17分、モーニング姿の安倍晋三首相が皇居・宮殿南車寄せに到着し、宮内庁幹部の先導で昭恵夫人とともに一礼して宮殿内に入った。
儀式が執り行われた宮殿「松の間」。午後5時、宮内庁の秋元義孝式部官長を先頭に、三種の神器のうち剣と璽(じ=まがたま)、国の印の国璽、公務に使う印章の御璽を持った側近の侍従とともにモーニング姿の上皇さま、皇族方が入室された。
上皇后さまと一緒に壇上に立った上皇さまはしっかりとした足取りで落ち着いた様子だった。剣と璽、国璽と御璽が順番に台の上に置かれ、安倍首相が国民を代表し感謝の意を伝えた。続いて上皇さまはお言葉を記した紙を受け取り、参列者に一礼して一言一言かみしめるようにゆっくりと在位中最後のお言葉を述べられた。
「我が国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります」。お言葉を終えた上皇さまは壇上から下りる上皇后さまに手を差しのべてサポートされた。最後は参列者に向かって再び一礼し、剣璽、国璽、御璽とともに松の間を後にされた。儀式は約13分で終了した。
午後5時20分、山本長官は「心を尽くして務めたいと思っていた。敬意と感謝の気持ちでいっぱいになった」と感極まった様子で執務室に戻った。
その後、上皇ご夫妻は宮殿内の部屋を回り皇族方や元皇族、宮内庁職員らのあいさつを受けられた。午後5時40分、新天皇、皇后両陛下が半蔵門を通り帰路につかれた。