ベテランが若手とせめぎあう ゴルフの持つ多様性
ゴルフジャーナリスト ジム・マッケイブ
2015年、ジョーダン・スピース(米国)がマスターズ・トーナメントと全米オープンを制し、四大大会で連勝したのは21歳のときだった。彼は2年後の17年に全英オープンのタイトルも獲得し、生涯グランドスラムに早々とリーチを掛けた。
同じ年、スピースとは同級生で、ジュニアの頃から競ってきたジャスティン・トーマス(米国)が全米プロ選手権で優勝。その1カ月後には年間王者となると、賞金1000万ドルを手にした。
あの2016~17シーズン、フェデックスカップの最終ランキングは、1位/トーマス(24)、2位/スピース(24)、3位/ザンダー・シャウフェレ(米国、23)、5位/ジョン・ラーム(スペイン、22)、7位/リッキー・ファウラー(米国、28)、8位/松山英樹(日本、25)と、20代の選手が上位を占めている。
※ カッコ内の年齢はすべて当時
また、あのシーズンはなんと、29大会を20代の選手が制した。プレーオフ最終戦「ツアー選手権」には、フェデックスカップのランキング上位30人しか出場できないが、40代の選手はわずか3人だけ。もう、この時点で若い選手の実力は疑いようがなく、世代交代の波にベテランたちがのまれていった。
ベテラン勢の巻き返し
ところが、今季はどうも様相が異なる。
先日、43歳のタイガー・ウッズ(米国)がマスターズ・トーナメントで逆転勝ちし、今季メジャー初戦で鮮やかな復活を遂げたが、今季、40歳以上の選手がトーナメントで勝者となったのは、早くも彼で4人目となった。
・マット・クーチャー(米国 40歳/2勝):マヤコバ・クラシック、ソニー・オープン
・フィル・ミケルソン(米国 48歳):AT&Tペブルビーチ・プロアマ
・ポール・ケーシー(英国 41歳):バルスパー選手権
彼ら以外にも、30代後半の選手が結果を残している。
・ジャスティン・ローズ(英国 38歳):ファーマーズ・インシュアランス・オープン
・J・B・ホームズ(米国 37):ジェネシス・オープン
・グレーム・マクダウエル(英国 39):コラレス・プンタカナ選手権
この傾向をどうとらえるか。実はそこに、ゴルフというスポーツの素晴らしさが見て取れる。
30代後半になれば、他のほとんどのプロスポーツで、アスリートは引退を迫られる。仮に引退していなくても、引き際をどうするか、否が応でもそれを意識させられる。
もちろん、ごく稀(まれ)に年齢の関係のないスポーツもあるが、野球、サッカー、バスケットボール、テニスなど、メジャースポーツで生き残る40代の選手など、ごく一握り。先日、45歳のイチローもついにユニホームを脱いだ。
だが、ゴルフは違うのである。
1986年、ジャック・ニクラウス(米国)がマスターズ・トーナメントで勝ったとき、46歳だった。
たとえ体力的には衰えようと、20代の選手も40代の選手も、同じティーグラウンドに立てる。もちろん、若い選手は軽々とベテランのティーショットをオーバードライブする。ロングホールで楽々2オンする。しかし、ベテランには若手にはない経験がある。飛距離が落ちても、それをカバーするだけのマネジメント力がある。そうした年齢もスタイルも異なる選手が同じ土俵で戦う多様性もまた、ゴルフの魅力ではないか。
憧れの選手との優勝争い
今年のマスターズ・トーナメント。最終日、シャウフェレは4アンダーをマークしてウッズに1打差の2位タイに入ったが、彼は試合後、「夢のようだった」と話した。97年、ウッズが21歳でマスターズ・トーナメントを初制覇したとき、シャウフェレはまだ3歳半だった。ただ、そんな年齢の離れた2人が、サンデーバックナインで優勝を争い、シャウフェレは憧れてきた選手の背を追いかけたのである。
「子供の頃から彼を見て育った。そんな選手と一緒に、メジャー大会の優勝を争えたなんて、それだけでも信じられない経験だ」
もはやゴルフも、他のスポーツ同様、若い選手有利の流れが、定着するのか。そんな矢先に、ウッズらが存在感を示した。
だから、ゴルフは面白い。