アマゾン包囲網じわり 前四半期売上高伸長率が半減
ネット通販市場で「1強」の地位を築いた米アマゾン・ドット・コムがライバルの攻勢にさらされている。25日に発表した2019年1~3月期決算は純利益こそ過去最高を更新したが、売上高の伸び率は前年同期から半減した。北米では実店舗を持つ米ウォルマートの攻勢が強まり、中国ではアリババ集団など地場企業の壁を崩せない。かつての成長の勢いが鈍り始めている。
1~3月期の純利益は前年同期比2.2倍の35億6100万ドル(約3900億円)だった。利幅が大きいクラウドサービス「AWS」や、広告事業を含むその他事業などが貢献し、4四半期連続で最高益を更新した。
好調な業績だが、課題も見えた。18年1~3月期に43%だったアマゾン全体の売上高の伸び率は19年1~3月期には17%まで半減した。売上高の49%を占める直営のネット通販事業の伸び率が10%と、前年同期の半分の水準になった。背景には実店舗とインターネットを組み合わせ、商品の当日受け取りサービスを拡大している米国最大の小売りチェーン、ウォルマートの存在がある。
ウォルマートは車から降りなくてもネットで注文した生鮮食品を持ち帰れる「グローサリーピックアップ」を全店舗の4割に導入している。アマゾンには無い全米に5千を構える店舗網を生かして利用者が増えており、ウォルマートの18年11月~19年1月期のネット通販事業の売上高は前年同期比43%増えた。
アマゾンが米国のネット通販市場で47%のシェアを握る一方で、ウォルマートは5%程度にすぎない。だが、米調査会社イーマーケターによると、ウォルマートの18年の米国のネット通販事業の前年比伸び率は39.3%で、アマゾン(23.1%)を上回っている。
アマゾンも高級スーパーのホールフーズ・マーケットを傘下に持つが、小売業界に詳しい米ペンシルベニア大学ウォートン校のバーバラ・カーン教授は「ネットで注文して店舗で受け取るシステムは、アマゾンより便利だと感じる米消費者も多い」と指摘する。
アマゾンのブライアン・オルサブスキー最高財務責任者(CFO)は25日の電話会見で「プライム会員向けに米国で翌日配送地域の拡大に取り組む」と発言。同社の会員制サービス向け特典を拡充する戦略を示した。
国土が広い米国では現在、プライム会員向けに2日以内に商品が届く配送サービスを無料で提供している。アマゾンはすでに一部の地域では翌日配送を無料で提供しているといい、これを全米に広げる考えだ。ネット通販の利便性を高めてウォルマートを引き離す。
アマゾンは米国の外でもライバルとの競争が激化している。04年に進出した中国ではアリババ集団や京東集団(JDドットコム)など現地大手の壁にはね返され、4月18日には中国で国内向けネット通販事業から撤退する方針を明らかにした。
アリババや京東は、商品の大量調達で仕入れ価格を抑えて価格競争を優位に進めている。かつての外資の流通大手のようにアマゾンも中国の流通市場の厚い壁を崩すことができなかった。
13年に本格参入したインドではウォルマート傘下の印フリップカートに次ぐ2位に浮上したが、政治の逆風が事業の先行きを難しくしている。19年に総選挙を控えるモディ政権が2月、中小の小売事業者を保護する目的でネット通販分野における外資規制を導入した。
新たな規制は出資先の商品の取り扱いなどを禁止する厳しい内容。アマゾンは「19年1~3月期への影響を最小限に抑えた」とするが、今後も予期せぬコスト増を迫られるリスクがある。
アマゾンにとってより気がかりなのは、クラウド市場で競合する米IT大手も小売業のデジタル化に加勢していることだ。ウォルマートは自動運転車を使った顧客の送迎サービスの開発でグーグル系のウェイモと組むほか、無人レジの導入でマイクロソフトと共同開発を進めているとされる。
「敵の敵は味方」とばかりに、マイクロソフトやグーグルはアマゾンの脅威にさらされる小売業を自社のクラウドサービスに取り込むことにも成功している。先端技術によってネット通販と店舗販売の垣根が失われる中、アマゾン包囲網は総力戦の様相を示し始めている。(シリコンバレー=白石武志、ニューヨーク=高橋そら)