豊島の作品 瀬戸内国際芸術祭2019
(1)垣内光司「豊島愛ランドスケープ」(新作)★★★
船着き場近くに設置されたレストラン。隣接する地元鮮魚店や食堂のランチを提供する。海や付近の島々が見渡せる高さ3メートルの「ハイチェア」に座って、目の前に広がる海の恵み、周囲に広がる山の恵み、食の循環を体感できる。
(2)横尾忠則(コンセプト、アート)/永山祐子(建築)「豊島横尾館」★★★
著名アーティスト・横尾忠則の作品ばかりを集めた常設館。強烈なインパクトの横尾流絵画だけでなく、手の込んだ細工にあぜんとさせられる。築100年という伝統的家屋の味を生かしつつ、改修ガラスの床越しにコイが足元を泳ぐ。池の石やタイル張りの底面のどぎつい彩色に心の準備をしていたが、家屋がガラス床の面に合わせて、壁から屋根までその幅だけ透明な建材で作り変えられている。世界中から集めたという9000枚ものさまざまな滝の絵はがきが、煙突状の内壁に整然と貼り合わせた入念さも、大胆と対極をなしている。出口を後にする人はみな一様に「まんまといっぱい食わされた」とニヤニヤしている。
(3)大竹伸朗「針工場」★★★★
造船所に長く放置されていた漁船の船体用木型が、かつてのメリヤス針の工場に裏返して配置されている。硬質な印象の工場の鉄骨構造と、滑らかな曲線を描く木の船底。大竹が得意とするコラージュの手法で、素材や歴史が対比される。今回はこの「針工場」に先駆けること20年以上前に、大竹が船型を題材にして制作した作品「シップヤード・ワークス 隔壁」も特別展示。針工場跡の船体と、輪郭がない船体断面がここでも対比されている。
(4)皆川明(ディレクション)/緒方慎一郎(建築)「ウミトタ」(新作)★★★
日本家屋を改装した1棟貸しの宿。木のはりや白しっくいの素材感を生かし、シンプルな中に柔らかい曲線を効果的に使った緒方設計の建物と、落ち着いた色味で温かさを感じさせる皆川デザインの内装がなじむ。玄関側に望む海と山側に広がる棚田。風景も巧みに取り込まれている。台所や風呂などの水回りには豊島石が使われ、外装には約1万枚の貝殻が光り、豊島での自然に身を浸すことができる。
(5)アンリ・サラ「豊島シーウォールハウス」★★★
古い民家に様々な楽器を使ったインスタレーションと映像作品を展示する。新作の映像ではヴィオラの演奏とカタツムリがコラボレーションするかのようだ。カタツムリののんびりとした動きが取り込まれるように演奏が変化していくさまは、時間芸術である音楽の面白さを再発見させてくれるようにも感じられる。
(6)井筒耕平/会田大也「コロガル公園in豊島」(新作)★★★
ため池だったすり鉢状の凹地にスロープとバンクをとりつけ、子どもたちが自由に走り回ったり、転げ回ったりできるよう目指した公園。ワークショップデザイナーの会田が子どもたちとともに遊び、公園を更新していく。
(7)森万里子「トムナフーリ」★★★★
池の中央に突き出た高さ3メートルほどの白い物体。生と死を象徴するという。作品はスーパーカミオカンデ(岐阜県神岡鉱山内のニュートリノ検出装置)と回線で接続し、宇宙のかなたで超新星が爆発する度に水面にぴかっと光を放つ。瀬戸内の小島と宇宙のどこかがつながることの不思議。急な坂道を数十メートル歩く必要がある。夜の鑑賞のみで予約制なのが残念。
(8)青木野枝「空の粒子/唐櫃」★★★
清水の湧く泉がある高台。斜面に形づくられる集落。泉をまつるように神社が鎮座し、鎮守の森が広がり、その傍らにこの作品がある。メダル状の金属盤を一つ一つ線状に溶接し、それらを支える脚で構成される。さびついた様が、古くから泉に仕える警護番のように見える。
(9)ピピロッティ・リスト「あなたの最初の色(私の頭の中の解〈ソリューション〉―私の胃の中の溶液〈ソリューション〉)」★★★
紫がかった陽光が差し込む天井裏に、円形のスクリーンが浮かぶ。海、土、植物、動物、人間。生命の質感を感じさせる映像が流れている。これは母胎の中の記憶だろうか。それとも死の間際の回想だろうか。想像が広がる。
(10)安部良(建築)「島キッチン」★★★
人家の密集する高台の集落の一角に開けた屋外テラスの飲食店。大人が何人も寝そべれそうな広々とした縁台が並び、優雅なスロープの板ぶき屋根が覆っている。夏はイチジクの木が大きな葉の緑陰を作るに違いない。
(11)ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー「ストームハウス」★★★★
何の変哲もない古い日本家屋に足を踏み入れる。突然、雷鳴がとどろき、大雨が降り出す。そんな時になぜか心が落ち着き、思索にふけったことは誰しもあるだろう。人間的な経験だ。しかし、雨がますます強まり停電まですると、巣穴で身を縮める動物のようにおびえるしかない。これは野性的な経験だ。両極端な心の揺れを約10分間で味わえる。興をそがないよう、静かに過ごしたい。
(12)クリスチャン・ボルタンスキー「ささやきの森」★★★
集落から傾斜に沿って墓地やミカン畑を左右に見ながら坂道を登ると、いつしか舗装が途切れ草深い山道に入る。さらに20分ほど歩を進めると、雑木林越しに風鈴の合唱が聞こえてくる。林につられた無数の風鈴。風が立つとかすかに届く風鈴の合唱に、こころが和む。
(13)内藤礼(アート)/西沢立衛(建築)「豊島美術館『母型』」★★★
海を見下ろす高台に、白亜の巨大な皿をふせたような建造物がそびえる。靴を脱いで足を踏み入れると、柱一本ない巨大な空間が広がり、なだらかな曲線のドーム天井が床まで届く。天井も床も白一色。屋根の2箇所に空いた円形の口から自然光が差し込む。落ち葉も舞い込めば、雨も吹き込む。ところどころに大小の水たまり。真珠やビー玉、ピンポン玉、テニスボール大の白玉がころがる。あらかじめ注意を促されるものの見とれて歩くうち、うっかり靴下を濡らしてしまった。
(14)イオべット&ポンズ「勝者はいない―マルチバスケットボール」★★★
豊島の海岸線を形どったと思われるボードにゴールリングが6つ、高低取り合わせて無造作に配置してある。タイトルが示すように「勝ち負けそっちのけで楽しもう」とのメッセージか。
(15)クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」★★★
世界中から集めた6万5000人の心臓音のサンプルを、約10秒おきに切り替えて再生。暗闇の細長い部屋に、心臓の鼓動に合わせて一つの電球が点滅する。鑑賞者参加型アートの一形態。鑑賞者も、希望すれば心音提供の一員に加われる。
(16)スプツニ子!(アート)/成瀬友梨、猪熊純(建築)「豊島八百万ラボ」★★★
アートと科学の力で運命の赤い糸にまつわる新たな神話作りを目指したインスタレーション。ダンスミュージックに合わせた楽しい映像作品と実験室のような空間で構成し、神話を否定する形で実現している生命科学と神話の時代以来変わらない生命や生殖、恋。その接近と分離、再創造に考えを巡らせる。
(17)塩田千春+田根剛「未定」(新作)★★★
地域の古い集会場に地元の人々と共同で、使われなかった建具をコラージュするように作り上げたトンネルのような作品「遠い記憶」。今会期終了後に解体される同作の内部に、2022年の完成を目指す新たなプロジェクトの模型を展示。様々な古道具が集められ、「遠い記憶」と同じく記憶をテーマにした作品がイメージされる。