女木島の作品 瀬戸内国際芸術祭2019
(1)木村崇人「カモメの駐車場」★★★
女木島に船が近づくにつれ、防波堤の上にずらっと並んだカモメが見えてくる。待合所の建物の上にもずらり。本物のカモメではない。板でできた作品だ。女木島を訪れる旅人を歓迎してているかのように思える。風が吹けばカモメたちも風見鶏のように一斉に向きを変える、という触れ込みなのだが、そよ風程度ではなかなか向きを変えてくれない。インスタ映えする写真を撮りたいなら、自分で1羽ずつ向きを調整しなければならないだろう。そんなゆるさもまた作品の魅力なのだが。
(2)禿鷹墳上「20世紀の回想」★★★
海に面して放置されたグランドピアノ。その上に4本の帆柱が立つ。島を発着するフェリーからは帆船のようにも見える。波音と海風のオーケストラに支えられてピアノが鳴り、不思議な協奏曲を奏でる。
(3)愛知県立芸術大学瀬戸内アートプロジェクトチーム「週末はMEGI HOUSE」★★★
愛知県立芸術大学の活動拠点。木漏れ日が揺らめき、上空を通過する星をオルゴールにみたてた音が鳴る。この空間は、光と音でゆっくりとした時の移ろいを感じさせる小宇宙だ。大学ならではの美術、音楽の各学部が連携したイベントにも期待。
(4)平尾成志×瀬ト内工芸ズ。「BONSAI deepening roots」(新作)★★★
新作の巨大盆栽と前回3年前に女木島島民に託した盆栽を対峙させ、流れた時間と定着した記憶を象徴させる。地元香川のクリエイター集団と共同で民家を改装して作り上げた空間はポップで居心地よさを感じるが、部屋を巡るとまったく別の顔をみせる。民家全体が一つの作品として成り立っている。
(5)ヴェロニク・ジュマール「Cafe de la Plage」(新作)★★★
ビーチを望むカフェ。店内にはのんびりした時間にアクセントを加える遊びが隠されている。明るい緑の壁は紫外線によって色を変え、テーブルは熱によって色を変え、ちょっとした驚きが少し特別な時間を演出する。
(6)宮永愛子「ヘアサロン壽」(新作)★★★★★
海の見える美容院。来店して予約すれば、これまで女木島で島民の髪を切っていた美容師さんに整髪してもらえる。「青空の下で、海を前にして、髪を切るのが長年の夢だった」と美容師さんは言う。その思いが実現し、お客さんとしてその夢に自分もつながることができる。そうした行為自体が作品として成り立っている。
(7)リョン・カータイ+赤い糸「ウェディング・ショップ」(新作)★★★
新婚夫婦が少ない島にあえて作られた店。その空間はど派手な中国の結婚式を思わせる。社会の最小単位であるふたりを祝うことで、人と人とのあらゆるつながりや営みをたたえている。
(8)原倫太郎+原游「ピンポン・シー」(新作)★★★★
体験型の作品。4種類の卓球台で卓球が楽しめる。お薦めはカラフルな"木琴"。長さの異なる赤や青、緑色などの角材で構成されていて、ピンポン球が当たる度にその角材に固有の音階の音が鳴る。台の下に音響装置が接続されているのだ。他にも、斜めに傾いた卓球台や変なところにネットがある変な形の卓球台など。船に乗って女木島にやってきてなぜ卓球なのか判然としないが、ラケットを振っていい汗かけば、島での思い出はいよいよ濃厚で忘れられないものになるはずだ。
(9)レアンドロ・エルリッヒ「ランドリー」(新作)★★★
ぐるぐる回る6台のコインランドリー。なぜこんなところにコインランドリーが、と思ってよく見ると、円い窓はいずれもモニター。洗濯物がぐるぐる回転するさまを映し出している。反対側に本物の洗濯機も設置。ありきたりな光景が実は巧みに作り出されたものだったという体験を演出する。回転する洗濯物を見つめながら、人はなぜ洗濯するのか、洗濯とは何なのか、という疑問が湧いてくれば、きっと作者の狙い通りだ。
(10)山下麻衣+小林直人「世界はどうしてこんなに美しいんだ」(新作)★★★★
古本屋になっている薄暗い部屋の壁には夕方の海沿いを自転車に乗って走る女性の映像。自転車のホイールには作品題名の文字が浮かび上がる。V・E・フランクルによる強制収容所体験記「夜と霧」から引用した「世界はどうしてこんなに美しいんだ」という一節が単調なのに不思議とずっと見ていたくなる映像を通して、より一層印象的な言葉として胸に残る。
(11)中里繪魯洲「un… こころのマッサージサロン」(新作)★★★★★
これも体験型の作品。靴を脱いで椅子に座る。黒い玉に足を載せる。ハンドルを回す。頭上の扇風機が回転し、足元のシンバルとベルが鳴り、なぜか竹ざおでつられた小さなゴジラと国会議事堂が容器の水へと落ちていく。椅子にはスコップがいくつもぶら下がり、水晶玉が作品を映し出す。遊び心が満載だ。訳の分からなさが突き抜けている。いつまでもマッサージされていたくなるが、順番待ちの行列は必至だろう。次を待っている人の冷たい視線を覚悟しよう。マッサージチェアとしての実用性は低い、と思った人のために本物のマッサージチェアも向かいに設置してある。この心遣いもまたうれしい限りだ。
(12)長谷川仁「的屋」(新作)★★★
貝殻など海岸で拾ったものや地物に手を加えて景品にしたヨーヨー釣り、瀬戸内のたこ焼き、島を自由にゆったりと我が物顔で歩く猫のお面など、この島にしかない的屋はゆるっとのんびりした雰囲気をまとい、この島の空気を映しているようでもある。
(13)大竹伸朗「女根/めこん」★★★★
立派なヤシの木を中心に様々なオブジェが並ぶ。歩を進めると、どこかの国の場末で流れていそうなラジオの音が聞こえてきた。植物が生い茂り、ごてごてと装飾された謎の小屋からは、えたいの知れない何ものかが今にも飛び出してきそうだ。極めて妖しい雰囲気が漂うが、ここは休校中の小学校だ。こんなものを作ってしまうとは……。あぜんとさせられる。
(14)依田洋一朗「ISLAND THEATRE MEGI『女木島名画座』」★★★
倉庫を活用した、古き良き時代のアメリカを感じる映画館。往年の映画スターの肖像画が壁一面に飾られたロビーを進むと、スクリーンにはニューヨークの名劇場の「その後」を取材した映像が流れている。映画ファンにはたまらないだろう。
(15)レアンドロ・エルリッヒ「不在の存在」★★★
白砂の庭を取り囲むように部屋が配置されている。一つの小部屋に入ると、「自らは存在しているのか」と疑うような仕掛けが施されている。部屋を出ると、一見何もない庭に「何者かが存在している」と感じさせるトリックに気付く。目に見えるものの不確かさを訴えかけているようだ。レストランと図書館を併設。
(16)EAT&ART TARO「瀬戸内ガストロノミー」★★★
(15)に併設されたレストランが30分で3皿のランチを提供する。風で有名な女木島をイメージしてセミドライの状態にした肉とトマト、同じく島の売りである桜を使って薫製したサワラの寿司などレクチャーを聞きつつ調理パフォーマンスを楽しみ、お腹を満たすと、30分の短いランチは島についての知識が身につく少し特別な時間に。
(17)杉浦康益「段々の風」★★★★
かつて段々畑だった高台に焼きもののブロックを400個ほども積み上げた。個々のブロックは特殊な建物の柱のようであり、人間の脚にも奇妙な植物にも思える。女木島の集落や港の景色がを見渡せる場所にある。絶景が作品と溶け合い、一大パノラマを形成している。ここに行くまでにかなりの勾配の坂を上る必要があるので注意。
(18)KOURYOU「家船(えぶね)」(新作)★★★★
かつて東アジアに多くいた船で暮らす人々。漂着し、うち捨てられた彼らの船をモチーフにした。人々の喜怒哀楽が一緒くたになって染み付いているようで、いや応なしに想像力をかき立てられる。
(19)オニノコプロダクション「オニノコ瓦プロジェクト」★★★★
女木島の船着き場からバスで約10分。山中に現れる洞窟のが鬼ケ島大洞窟だ。道のり約80メートルほどの洞窟内に、香川県内の中学生たちが作った大量の鬼瓦があちこちでこちらをにらんでいる。どの鬼瓦も表情が異なる。女木島の鬼ケ島伝説に思いを巡らせつつ、一枚一枚の鬼瓦を眺めていたい。洞窟への入場料が別途必要。