首位快走楽天 福井ら、先発の二枚看板不在穴埋め
楽天が好調だ。昨季は最下位。オフにリーグ覇者西武から打点王の浅村栄斗がフリーエージェント(FA)移籍で加わったとはいえ、選手層はなお厚みに欠ける。開幕前には投手陣の柱、則本昂大が右肘手術で戦線を離脱。2ケタ勝利が計算できるエースの不在でシーズン前は悲観的な予想が大半だった。(記録は22日現在)
ところが、である。浅村が3番にどっしりと座り、前を打つ茂木栄五郎、後ろに控える4番島内宏明、5番ゼラス・ウィーラーが好調。銀次、ジャバリ・ブラッシュと続くジグザグ打線はいやらしく、つながりがある。
ブルペンにも安定感がある。やはり抑えの松井裕樹の復調が大きい。不振の昨季は抑え役を全うできず、シーズン途中で中継ぎ、先発に回され、わずか5セーブ止まり。それが結婚を経て迎えた今季はすっかり自信を取り戻している。制球も安定し、17日の西武戦では九回無死満塁での登板にも自信を持って3ボールから変化球を投げきり、昨季を上回る6つ目のセーブをマークした。
先発陣の健闘も光る。則本昂に続き、開幕投手を務めた岸孝之が初戦の五回途中で左太もも裏を痛めて降板。登録抹消となりローテーションの軸となるべき二枚看板のいない非常事態となったが、これに次ぐ面々が打線の頼もしい援護をバックに5~6回まで試合をこわさずに役割をこなしている。美馬学、辛島航といった生え抜き組に加え、新戦力の福井優也がすでに2勝を挙げて首脳陣の信頼を勝ち取っている。
菊池保則との交換トレードで広島から移籍。斎藤佑樹、大石達也とともに早大の「三羽がらす」と呼ばれたかつてのドラフト1位も、昨季は登板3試合で1勝もできなかった。すでに31歳、覚悟を決めて臨んだ今シーズンだった。
真っすぐを主体とするスケールの大きな本格派と、首脳陣は当初からローテーションの一角を期待。小さくまとまっては福井らしさが消えると、平石洋介監督は「攻めての四球は福井の持ち味」と大きく構えた。これがあたった。もともと細やかな制球で勝負するタイプではない。太っ腹な監督の後押しを受け、走者を出しても縮こまらずに本来の力の投球を心がけた。
初先発は4月3日の日本ハム戦(楽天生命パーク宮城)。5回を投げ4安打4四球と再三走者を背負ったが、決定打を許さず無失点。勝ち星こそつかなかったが、3-2の勝利に貢献した。
手応えを感じて臨んだ次の登板で、714日ぶりとなる勝利を手にする。10日、敵地メットライフドームで西武を相手に6回2失点。これまた5安打4四球を許したものの、平石監督いわく「変な四球はなかった。前回よりよかった」。カギは先制点をもらった直後の三回裏。同点とされ、なお1死一、三塁のピンチで秋山翔吾、山川穂高、森友哉の西武の誇るクリーンアップに痛打を許さなかった。援護点の直後の失点を反省しながら「2点でしのげたのがよかった」と福井。「苦しい時期があっての今日なので……、うれしいです」と移籍初勝利を喜んだ。
翌週17日、西武との再戦で2勝目を手にした。前回登板後「相手は(自分の投球を)分かっていないし、僕にも(相手打線への)怖さはない。(何度も対戦していく)これから(が肝心)です」と話した福井にとってはさっそく迎える正念場だった。
相変わらずの苦しい立ち上がりで、初回3四球にヒット2本であっさり3点を先制された。だが「チームの勝ちに貢献する。ゲームを壊さないように」が今季のテーマの中、前だけを向いた。先発投手の役目に立ち戻り、「3点でしのいで五、六回まで投げよう」と切り替えた。すると初回がうそのように直球の伸びが増し、変化球に切れが戻った。二~五回は1安打1四球。守備の時間がぐっと短くなり、この立ち直りが五回までに5点を取った打線の奮起と無縁とはいえまい。我慢していれば打線がなんとかしてくれるというまさにその通りの形。いまのチーム状態が表れた逆転勝ちだった。
安楽、釜田も役割果たす好投
福井だけではない。岸の代役として先発のおはちが回ってきた安楽智大は3試合に登板し、7回2失点、5回0/3で2失点、6回4失点。勝ち星こそついていないが、役割はこなしている。右肩の故障もあり、こちらも昨季は未勝利。再起を目指すシーズンに、愛媛・済美高の先輩である福井とチームメートになったのも何かの縁だろう。食事をともにしては「俺たちはエースじゃない。6回3失点でもナイスピッチングじゃないか。プレッシャーを背負いすぎずマウンドに立てばいいんだ」などのアドバイスをもらっているという。先輩を見習い、「粘り強く、勝ちにつながる投球を」心がけ、ローテ生き残りへ早期の白星奪取を狙っている。
故障に泣き、昨季は0勝に終わったもう1人の先発、釜田佳直も21日のオリックス戦で今季初登板。六回途中まで3失点でさっそく655日ぶりの白星をつかんだ。岸もまもなく復帰予定で、気がつけば可能性を秘めた楽しみな投手陣ができあがりつつある。チームスローガン「RESTART!日本一の東北へ」にふさわしい再始動のシーズンが順調にスタートした。
(土田昌隆)