スリランカで同時爆発、観光立国に打撃 外国人狙うテロか
【ニューデリー=黒沼勇史】スリランカのホテルと教会など計8カ所で21日に起きた爆発は、観光立国である同国の経済に大きく響きそうだ。外国人旅行者が使う五つ星ホテルで爆発が相次ぎ、200人強の死者に外国人も含まれていた。政府はテロ行為との認識を示し、事実解明を急ぐ。だが、これまでキリスト教徒や外国人を標的にしたテロは目立たなかっただけに衝撃は大きい。事態解明に手間取れば、経済の立て直しが遅れる懸念もある。
現地メディアが流した映像によると、爆発が起きた3教会の1つ、最大都市コロンボの聖アントニー教会では床ががれきで埋まり、壁面の一部が崩れ損傷した。政府庁舎や中央銀行なども集まる中心部のホテルでは、ガラスの吹き飛んだ映像を報じた。国籍は不明だが、死者には35人の外国人が含まれているとの情報もある。
現地での情報は錯綜(さくそう)しているが、最大の焦点はイスラム過激派が関与しているのかどうかだ。
AFP通信によると、事前に外国機関から警察高官に「教会への自爆テロ計画の情報が寄せられていた」といい、爆発の10日前に各地の警察当局に警告が出ていた。その際、スリランカ国内のイスラム過激派の名前も挙げていたというが、今回の爆発との関連は分かっていない。現地時間21日夜の段階で犯行声明などは出ておらず、全容の解明には時間がかかる可能性もある。
スリランカではヒンズー教徒のタミル人と、多数派で仏教徒中心のシンハラ人の間で抗争が続いた歴史がある。1970年代に結成されたタミル人過激派組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」とシンハラ人が対立し、90年代に大統領が爆弾テロの犠牲になるなど治安が悪化した。
だが、その後はLTTEが2009年に敗北宣言し、ラジャパクサ前大統領が内戦終結を宣言した。その後は治安も改善し、大規模なテロは久しく起きていなかった。キリスト教徒は人口の7%程度にとどまる少数派で、「仏教徒の一部の過激な群衆が突発的に暴徒と化してキリスト教徒を襲撃することはあったが、テロの標的になることはなかった」(現地ジャーナリスト)という。
これまではイスラム過激派が関与するようなテロも目立っておらず、スリランカ国内には動揺が広がっている。
ウィクラマシンハ首相は爆発後のツイッターに「未確認の報道や観測は控えてほしい」と書き込み、市民に平静を保つよう呼びかけた。夕方から外出禁止令が出たほか、交流サイト(SNS)も使用できなくなった。デマが流れ、不測の民族・宗教対立が再燃するのを防ぐためとみられる。
人口2100万人のスリランカの経済は観光に大きく依存している。外国人観光客の支出額は50億ドル(約5600億円)前後で推移し、2017年時点で輸出総額の27%、国内総生産(GDP)の6%を観光で稼いだ。仮にイスラム過激派を含むテロ組織が関与していた可能性が濃厚になれば、観光の客足が遠のき経済に打撃を与える可能性がある。
同国は520億ドルの対外債務を抱え、返済原資の確保に苦しんでいる。19年1月には外貨準備高を取り崩して償還期限のきた一部債務を返済した経緯もある。観光産業は重要な外貨の稼ぎ手だけに、今回の連続爆発が観光客の減少につながれば、債務償還が滞るリスクが一段と高まりそうだ。