かやくご飯、名前の由来は大阪?
(あのまちこの味)
芋棒(京都市)
炊き合わせ、食感ふっくら
「百年を伝えし味には百年の味あり」――。小説家の吉川英治がこう評した京都の伝統の味が「芋棒(いもぼう)」だ。ふっくらとした海老いもと棒だらが食欲をそそる。古今東西から京都を訪れた著名人が味わい、文豪・川端康成も「美味延年」と記した。おせち料理としても親しまれている伝統ある京料理だ。
芋棒は江戸中期の発祥と言われる。九州で手に入った唐芋(とうのいも)を京都に持ち帰り、京の土で育てたのが「海老いも」。その海老いもと、当時は貴重だった棒だらを炊き上げたのがルーツだ。
京都・円山公園のなかに構える「いもぼう平野家本家」は、松本清張の短編小説「顔」の舞台にもなった老舗だ。この平野家の初代こそ、宮様に仕え、芋棒を考案した平野権太夫氏。女将の北村明美さんは「宮様にだしたところ大変喜ばれた」と話す。見かけはシンプルでも、火加減や調味料のタイミングで味が全く変わる。「一子相伝で、口伝のみで代々伝わる」と女将。京に伝わる「百年の味」を楽しんでみてはいかがだろうか。
(京都支社 赤間建哉)
=2019年3月6日付掲載
昆布のつくだ煮(大阪)
北前船が運んだご飯の友
一口サイズの湿った昆布を、ごはんと一緒に食べると甘くまろやかな味が広がる。昆布を調味料で味付けした昆布のつくだ煮は関西で人気が高い。総務省家計調査によると、大津市や奈良市、堺市の消費量は全国平均を3~5割上回る。
関西で消費が多いのには理由がある。江戸時代に昆布の主産地、北海道から北前船で昆布が大阪に運ばれ、水産卸や加工業者が大阪で育った伝統があるからだ。つくだ煮も魚の発祥は関東だが、昆布は大阪が発祥という説が有力だ。
昆布のつくだ煮は、関西では塩昆布とも言う。紛らわしいのは乾燥した昆布で塩をまぶした乾燥塩昆布も、つくだ煮と呼ぶ場合がある点だ。湿ったつくだ煮でも乾燥塩昆布でも、どちらも昆布のつくだ煮であり、塩昆布という。
1781年創業の神宗(大阪市中央区)は、昆布だしにしょうゆや砂糖で炊いて昆布のつくだ煮をつくる。昆布の切れ端でつくった徳用品は特に人気で、百貨店では毎朝行列ができる。「中高年層を中心に人気が安定している」(神宗の小山鐘平社長)
(大阪経済部 山本修平)
=2018年10月3日付掲載
かやくご飯(大阪)
合わせだしで味わい深く
ごぼうやニンジンを混ぜた炊き込みご飯を大阪・関西では「かやくご飯」と呼ぶ。室町時代、味付けした野菜などを白飯に乗せ、すまし汁をかけて食べる「法飯(ほうはん)」が僧侶や上流階級の間で流行し、形を変えて庶民に広がったのが源流という。漢方では、主成分に加えて効能を上げる補助薬を「加薬」と言い、薬問屋の集まる大阪では昔、混ぜることを「かやく」とも表現したことから、その名が付いたとの説が有力だ。
大阪・難波の「大黒」は1902年創業の専門店で、かやくご飯のパイオニア的存在。利尻昆布とかつお節で取っただしの深い味わいが特長で、「細かく切ったごぼう、薄揚げ、こんにゃくの3種の具材が香りや歯応えを補っている」とおかみさんの木田節子さん(71)。
昆布とかつおの合わせだしは江戸時代の大阪で生まれたとされる。相愛大学の前垣和義客員教授は「日本のだし文化の原点としてのこだわりと、家庭の残り物でも具材にできる合理性が、商人の町・大阪で愛されてきた理由ではないか」と分析している。
(大阪社会部 堀越正喜)
=2018年9月19日付掲載
富田漬(大阪府高槻市)
さっぱり辛口、茶漬けの友
地元産のうりを酒かすと塩で漬け込んだ富田漬(とんだづけ)は、大阪府高槻市の富田地区の酒蔵で作られてきた。さっぱりとした辛口の味わいとシャキシャキした食感が特徴。徳川家康が称賛し、江戸時代には幕府献上品になったとも伝えられている。
使われている「服部越瓜(しろうり)」は、同市の塚脇地区で栽培されており、2005年には大阪府の「なにわの伝統野菜」に認証された。通常のうりより固く、漬物にしたときに形が崩れず、しっかりとした歯応えが楽しめるという。
同市の寿酒造は60年以上、自社の酒かすを使って製造。例年7月ごろ熟成させた酒かすで仕込みを始め、お盆の時期に発売されるが、12月にはほぼ完売してしまうという。ファンの裾野を広げるため、今年は従来の半分のサイズで包装紙を新しいデザインに変えた「富田漬ハーフ」も登場。同社の営業、寺田圭佑さんは「そのまま食べるだけでなく、お茶漬けの具にもおすすめ。若い人にもぜひ食べてほしい」と話す。
(大阪社会部 佐藤未乃里)
=2018年2月21日付掲載
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