効果は打率3厘減? それでも増えるか守備シフト
野球データアナリスト 岡田友輔
内野手3人が一、二塁間を守り、三遊間には一人だけ――。打者に応じて野手が極端に移動する守備シフトが日本でも見られるようになってきた。この戦術、定位置なら抜かれていた当たりをアウトにできる半面、正面だったはずの打球が安打になってしまうこともある。トータルでの採算は合っているのか。
■大リーグで急増、昨季は3万回以上
大胆なシフトは2010年前後から米大リーグで目立つようになった。その数は14年ごろから急激に増え、18年には3万回を超え、いまや日常的な光景となっている。日本では、野手全体が右に偏る「王シフト」のような例外を除くと、定位置付近で守ってきたが、今季から日本ハムやDeNAが使い始めた。4月18日のオリックス―日本ハム戦ではオリックスの吉田正尚が「一、二塁間への三ゴロ」でアウトになっている。
大リーグでは近年、投高打低の傾向が鮮明だ。06年に2割6分9厘だった平均打率が18年は2割5分を割り込んだ。ロブ・マンフレッドコミッショナーは「極端な守備シフトが安打を減らして野球の魅力を減じている」と考え、シフトの制限や禁止を検討しているという。しかし統計的には、打球がフィールド内に飛んだ「インプレー」の打率はシフトにかかわらず、ほぼ一定で推移している。シフトの増加傾向が安打を減らしたとはいいがたい。
打率低下の原因はシフトではなく、過去10年で4%増えた三振にある。速球のスピードアップ、多様化する変化球などで投手のレベルが上がり、連打が難しくなった。こうした背景から攻撃側は単打を連ねるのでなく「フライボール革命」に代表される長打を狙う傾向を強め、その代償として三振の増加に拍車がかかっている。
シフトは「正しい打者に対して正しいシフトを選択し、正しい配球をしたとき」にこそ効果を発揮する。イチローのような広角に打てる打者が相手では、空いたスペースを破られるのがオチだからである。
シフトが最も効くのは引っ張り専門の左打者に対してだ。右打者の場合、引っ張ると分かっていても、一塁手がベースから遠く離れるわけにはいかない。一方、左打者に対しては一、二塁間の野手を増やすべく三塁手を動かしても問題はない。打者の打球方向の傾向を基に最も合理的なシフトを取ったうえで、ゴロを打たせる配球をすればアウトにできる確率は高まる。
シフトには、定位置なら捕れている打球が安打になってしまうマイナスの側面もある。米国の著名なデータ分析家であるジョン・デュワン氏は「シフトの効果は打率にして3厘減程度。投手力の影響の方がはるかに大きい」と指摘する。投手にはきっちりとゴロを打たせることのできる制球力が必要だ。またシフトを敷かれた打者は内野を越えるライナーやフライを打とうという意識が強まる。それはゴロでの単打を減らせる一方、長打のリスクが高まることにもつながる。打ち取ったはずの当たりが安打になったときの複雑な投手心理への配慮も含め、シフトの活用にはチーム全体の理解と協力が求められる。
■少しでも偶然を排除するための方策
シーズンを通してシフトを正しく運用できても、それで安打を劇的に減らせるわけではない。それでもシフトが増え続けている現実をどう理解すればいいのか。
以前のコラムで「ゴロを打たせるところまでは投手の責任だが、その打球が野手の正面に飛ぶか、間を抜けて安打になるかは偶然の要素が大きく、投手の責任範囲を超えている」というセイバーメトリクスの考え方を紹介した。この視点に立つと、極端なシフトとは、野球というゲームから偶然を極力排除し、少しでも多くの要素を自らのコントロール下におきたいという意思の表れと考えられる。シフトで安打を減らせるのなら、それがどんなに僅かでも知恵を絞って削り出す。プロの野球とはそれほど紙一重の勝負になってきている。
大リーグに比べると引っ張り一辺倒の打者が少なく、がら空きになったスペースを狙う選手が多そうな日本でもシフトは定着するのか。しばらく見続けないとその答えは出ないだろうが、この19年が日本における「守備シフト元年」になる可能性はある。テレビ中継ではなかなか見えにくいところ。球場に行く機会があれば、守備隊形やそれぞれの守備位置に是非注目してみてほしい。