天然ゴム先物、現物と温度差 中国巡る思惑が左右
商品部 桝田大暉
自動車タイヤの原料に欠かせない天然ゴム。最大需要国である中国の景気を巡る思惑が交錯し、先物の指標となる東京商品取引所の相場は乱高下が続く。一方、東南アジア産地の自然災害や減産期入りを受け、東南アジアの現物相場は年初から底堅さを取り戻した。両者の値動きの乖離(かいり)は、足元の引き締まった需給と中国を巡る先行き不安というギャップの大きさを映し出す。
天然ゴム先物では中国の上海期貨交易所とともに東商取の相場が世界的な目安となる。指標品のRSS(期先)は3月4日に1キロ206.2円と約1年2カ月ぶりの高値をつけた。昨年後半は米中貿易摩擦への懸念から軟調だったが、両国の度重なる通商交渉で関係が改善し、自動車タイヤ向けの需要が上向くとの期待が高まった。
その後は米中交渉が長期化したため、先物相場は下落に転じた。3月28日には181.3円をつけ、わずか1カ月で12%下落した。その後は中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)が改善傾向を示したことなどから先物は再び上昇。落ち着きのない値動きが続いている。
先物が荒い値動きを示す一方、相対で取引するタイの現物相場は3月以降も高止まりしている。足元は1キロ54バーツ前後(RSS)と年初来高値圏だ。
現物相場は先物とおおむね似た値動きを示すが、足元の需給を色濃く反映する傾向が強い。東南アジア産地で高温・少雨による減産の懸念が強まったほか、タイの減産期入りも需給引き締まりにつながっている。上海期貨交易所の指定倉庫在庫は12日時点で約44万トンと前年同期とほぼ同水準だ。需給に大きな緩みはないと言える。
過去の値動きをみると、先物と現物の乖離は、18年夏にもみられた。深刻な米中対立で中国のタイヤ需要が鈍るとの懸念が強まり、6月から先物が現物以上に下がったためだ。乖離が解消したのは8月中旬。中国の7月の新車販売が前年割れとなったことが伝わり、現物の下げが先物に追いついた。
「中国の需要を巡る心理が先物相場の変動を過度に増幅させている。外部要因が強く、需給だけで値動きをみることはできない」と楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは指摘する。
天然ゴム市場では景気減速懸念が強まったとはいえ、今や中国が世界需要の4割を占める。中国は21世紀に入って急速な経済発展を遂げ、新車販売台数が拡大。山東省を中心にタイヤメーカーが立ち上がり、消費大国として存在感を高めてきた。先物市場参加者の関心は圧倒的なバイイングパワーを誇る同国の景気動向に集中している。
生産国ではタイ、インドネシア、マレーシアの3カ国が市況てこ入れ策として4月からの輸出削減を表明した。だが「以前なら先物相場を押し上げた輸出削減策も今回は効果が薄い」とゴム専門商社、加藤事務所(東京・中央)の加藤進一社長は指摘する。「先物市場は中国の動向に支配されている」(同氏)状況だ。
足元の需給を映し出す現物相場と異なり、先物相場は先行きの思惑で揺れ動く。両者の温度差は、中国経済を巡る市場心理が悲観と楽観の間で大きく揺れ動いている表れと言えそうだ。