米国に報復関税 200億ドル相当 EUが準備 硬軟姿勢で軟着陸探る
【ブリュッセル=竹内康雄】トランプ米大統領が航空産業への補助金に絡んで欧州連合(EU)製品に関税を課す考えを示したことについて、EUは17日、対抗策を発表した。米側が実際に関税をかければ、米工業品や農産品など幅広い分野の米製品200億ドル(約2兆2000億円)相当に関税を課す内容だ。トランプ政権の保護主義的な動きには屈しないとの姿勢を示しつつ、対話を通じ貿易戦争の激化を避け、軟着陸を探る構えだ。
トランプ氏は9日、EUが欧州の航空機大手エアバスに不当な補助金を与えているとして110億ドル分のEU製品に課税すると表明した。これに対し、EUは米政府の米ボーイングへの補助金が公正な競争の妨げになっていると反論し、対抗措置を決めた。
公開された11ページにわたる制裁関税の品目リストにはトラクターやハンドバッグ、スーツケース、魚類など幅広い製品が並ぶ。報道官は「企業の公正な競争環境を確保する」と語った。
EUが対抗措置を発表したのは近く始まる米欧間の通商交渉に向けた布石といえる。EU加盟国は15日、執行機関である欧州委員会に米国と通商交渉をする権限を認めた。米政権の強硬姿勢に動じない姿勢をみせる狙いだ。
16日には18年7月から19年4月半ばに米産大豆のEUへの輸入が前年同期比121%増えたと発表した。貿易関係の重要性を訴えるとともに、報復関税の対象に大豆を加え、米国に圧力をかける姿勢を示した。
だが実際は関税の引き上げを実行する前に、米国と一致点を見いだしたいのがEUの本音だ。マルムストローム欧州委員(通商担当)は17日の声明で「対抗措置の準備を進める必要があるが、我々は米国との対話にオープンだ」と表明した。
通商問題だけでなく、イラン核合意や華為技術(ファーウェイ)など中国製品の排除を巡っても米欧には溝があり、一段の対立は避けたい。米国の関税引き上げでは実際の額などは世界貿易機関(WTO)の算定に基づくため、結果が出るのが早くても夏前だ。その間に米国と合意に向けた道筋をつけたい考えだ。
米欧の通商関係はトランプ政権の発足以来、自動車の輸入関税の引き上げなどを巡り冷え込んできた。EUが関係改善に向けて求める成果は2つ。1つはトランプ政権が既に発動している鉄鋼・アルミニウムへの追加関税の撤回だ。もう1つはトランプ政権がちらつかせる自動車の輸入関税の引き上げを実行しないとの確約を得ることだ。
その上で幅広い工業品の関税の相互引き下げや様々な基準・規格の共通化をめざす。ユンケル欧州委員長は「双方の貿易が増えるのはお互いのメリットになる」と米欧貿易関係の改善を訴える。
とはいえEUの思惑通りに交渉が進むはずもなく、難航は避けられない。何より欧州委がEU各国から得た権限には農業分野の交渉は入っていない。だがトランプ政権が重視するのはEUの農業市場の開放だ。米側がEUに農業の議論を持ち出しても欧州委は何も決められない。米側を納得させるのは至難といえる。
EU内部の足並みもそろっていない。農業国に配慮して欧州委の交渉権限から農業分野を外したが、フランスは最後まで反対した。5月下旬の欧州議会選を前に国内有権者に配慮する必要があったのに加え、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱表明した米国といかなる交渉もすべきではないとの主張だ。