Jリーグ史上最速 進化する横浜Mの攻撃サッカー
サッカージャーナリスト 大住良之
2月22日に開幕したJリーグは早くも全34節の5分の1に当たる7節を消化。サンフレッチェ広島が5勝2分け、無敗の勝ち点17で首位に立っている。2位は同じ5勝2分けのFC東京。ともに堅守からの速攻を武器とし、得失点差でFC東京を上回る広島は7試合でわずか失点3。チーム全員のハードワークが今季もしっかりと結果を残している。
序盤戦の驚きのひとつは昨年のJ2で2位に躍進し、6年ぶりのJ1昇格を果たした大分トリニータ(片野坂知宏監督)の躍動ぶりだ。広島でミハイロ・ペトロビッチ監督(現コンサドーレ札幌)、森保一監督(現日本代表監督)の下でコーチを務めた片野坂監督はスピード感あふれる攻撃的なチームをつくり出し、対戦チームに衝撃を与えている。
エースのFW藤本憲明は、日本フットボールリーグ(JFL)、J3、J2、そしてJ1と、日本の全国リーグを時間をかけて上がってきた29歳の苦労人。開幕のアウェー鹿島アントラーズ戦で2得点して2-1の勝利に貢献、センセーショナルな「J1デビュー」を飾り、第7節終了時点で得点ランキング首位(6得点)につけている。
■プレー、昨年からバージョンアップ
しかし私が今季最も大きな衝撃を受けているのは、アンジェ・ポステコグルー監督率いる横浜F・マリノスのスピード感あふれるサッカーだ。
昨年から横浜Mの指揮をとっているオーストラリア人のポステコグルー監督。昨年もGKの極端な前進ポジション、両サイドバックの中央進出など画期的な攻撃サッカーを展開したが、なかなか勝利につながらず、18チーム中12位にとどまった。
しかし今季は昨年のサッカーをさらにバージョンアップしたプレーを見せている。3勝3分け1敗、決定的なチャンスを得点に結び付けられない試合もあって勝ち点12で5位にとどまっているが、首位争いに加わっても不思議のない試合内容ばかりだ。
ここ数試合で固定されているメンバーは、GK朴一圭(パク・イルギュ)、DFは右から松原健、チアゴマルチンス、畠中槙之輔、広瀬陸斗、MFは喜田拓也を「アンカー」に置き、その前にキャプテンの天野純と三好康児、FWは右から仲川輝人、エジガルジュニオ、そしてマルコスジュニオール。第6節の浦和レッズ戦でエジガルジュニオが負傷すると、第7節の名古屋グランパス戦では遠藤渓太がFWに入った。
ポステコグルー監督は昨年から時間をかけずに前に行くサッカーを指向していたが、今季はそのスピードが格段に速くなった。GKやDFから機を逃さずに縦パスが出る。シンプルなパス交換がはさまり、さらに前に出される。そしてゴールに向かっていく。
■イメージはランク1位ベルギー代表
今季からセンターバックのコンビを組むチアゴマルチンスと畠中(ともに昨年途中に加入し、畠中は今季からレギュラー)はパス能力が高く、攻撃の起点となる。アンカーの喜田は24歳の若手だが、今季大きく成長してこのポジションで完全にレギュラーとなった。今季からキャプテンの天野、そして昨年は札幌でプレーし、ことし川崎からの期限付き移籍で移ってきた三好の2人が、見事に攻撃を加速させる。
オールラウンドな能力をもつエジガルジュニオ(今季ブラジルから移籍)が浦和戦で負傷したのは痛いが、小柄なマルコスジュニオール(同)も、ポステコグルーの攻撃的なサッカーに完全にフィットしている。
こうした選手たちがつくり出す攻撃のスピードは、過去26シーズンのJリーグの歴史でも見られないものだ。個々の選手の判断の速さが、シンプルで素早いパス交換、そして前へ前へと出ていく推進力につながる。昨年のワールドカップでセンセーションとなり、現在国際サッカー連盟(FIFA)ランキング1位に君臨するベルギー代表に通じるイメージがある。
驚くべきは、「ポステコグルー・サッカーの進化形」が、昨年とはメンバーを半数近く入れ替え、そのうち2人がJ1でのプレーが初めてという事実だ。開幕当初は右サイドバックでプレーし、左サイドバックの高野遼が負傷すると左に回って見事なプレーを見せている広瀬と、第5節からゴールに入ったGK朴だ。
なかでも朴の登場はセンセーションといえる。埼玉県生まれ。朝鮮大学校からJ3の藤枝、琉球でプレーしていた29歳。琉球をJ2に昇格させる活躍で、今季横浜Mに引き抜かれた。ポステコグルー監督の理想とするGKは最後尾からビルドアップできる選手であり、昨年起用された飯倉大樹はときに1試合に7キロを走る運動量で驚かれたが(通常GKは3~4キロ)、前に出た穴をつかれての失点も少なくなかった。
その飯倉からレギュラーポジションを奪った朴は、飯倉に負けないビルドアップ能力だけでなく、非常に判断力があるためにまったく危なげがない。このGKがポステコグルーのサッカーを一歩も二歩も前進させたのは間違いない。