Amazon、偽ブランド品を推奨 AIが見過ごす
【イブニングスクープ】
「Amazon(アマゾン)で、大手ブランドの模造品販売が野放しになっている」――。偽ブランド品問題に取り組む日本の専門家の間で、そんな声が上がっている。他の通販サイトよりも審査が甘く、悪質業者による不正な出品が集中しているという。批判は本当なのか。記者(39)が米アマゾン・ドット・コムの日本サイトで模造品の有無を探り、自分で出品者登録もして確かめてみた。
アマゾンはAI(人工知能)を駆使した不正検知システムなど模造品対策に力を入れることで知られる。記者が見つけたのは、アマゾンの不正対策の「抜け穴」の意外な多さと、信用低下につながりかねない対応の危うさだった。
業者のウソを「見逃し」
2019年2月以降、記者はアマゾンのサイト上で模造品の出品を探った。するとたちまち、仏高級ブランド「ゴヤール」のバッグやドイツの「MCM」の財布など多くの模造品が出品されているのをみつけた。いずれも正規の新品として出品されているが、表示価格は本来の値段の半額や10分の1以下となっていた。
購入して専門家の査定を受けると、ことごとく模造品と判明した。東京都内の百貨店にあるゴヤールの正規店の従業員は、ひと目で「正規品ではないですね」と苦笑いした。悪質な業者からの不正な出品だった。
アマゾンは不正を見逃しただけでなく「お薦め商品」にさえしていた。同社には、サイトに出品された商品のうち、アマゾンが特に推奨するものに「アマゾンズ・チョイス」のマークを付ける仕組みがある。記者が確認しただけで20点以上の模造品が、このマークの対象に選ばれていた。
業者に連絡しようと、アマゾンに登録されている情報を確かめると驚いた。登録情報の多くがウソだったからだ。電話番号は桁が通常よりも1つ多くて不通だったり、住所が存在しない番地だったりした。ゴヤールの模造品を売っていた業者が登録していた住所は愛知県刈谷市となっていたが、記者が訪れるとそこは新築アパートの建設現場だった。事務所は見当たらず、連絡も取れなかった。
模造品防止の取り組みについてアマゾンジャパン(東京・目黒)に聞くと、「模造品の販売は厳しく禁じている」と強調した。AIで画像などのデータを分析する、不正検知システムも整備しているとの説明だった。一方、ブランド品の権利保護団体「ユニオン・デ・ファブリカン」(東京)の堤隆幸・事務局長は「担当者による登録情報の確認などの取り組みは弱い」と指摘する。
どちらの言い分が正しいのか。記者は自分でアマゾンに出品者登録をして試した。アマゾンと同様に業者からの出品が多い楽天にも登録を申し込み、審査の内容を比べた。
登録手続きにスキ
登録に利用したのは、記者の私用のメールアドレスとクレジットカードなどだ。虚偽の情報がチェックされるか確かめるため、電話番号と住所だけは、わざと間違えて存在しないものを入力した。
反応が早かったのは楽天だ。登録手続きの途中の段階で担当者から「お電話しましたが、ご不在でございました」とメールが届いた。さらに身元確認のため、住民票や印鑑証明書などの提出を求められた。虚偽の情報があれば登録できない仕組みになっていた。登録審査に2週間以上かかる。登録後でも、模造品の出品がひとつでも確認されれば出品を全面的に禁じる可能性があると、規約で定めている。
一方でアマゾンの出品者登録は、実質的な審査はクレジットカードの認証だけだった。存在しない電話番号と住所に対する指摘はなく、数時間で登録が完了した。その後、1カ月以上たっても、担当者からの指摘や確認はなかった。記者は実際には出品していない。
アマゾンが消費者からの不正の指摘にどう対応するかも、確かめてみた。まず実際に購入したゴヤールの模造品について、サイトの口コミ評価に「この商品は模造品でした」と投稿した。しかし投稿は表示されず、アマゾンから「公開できませんでした」とのメールが来た。内容が規約に違反しているとの説明だった。同社は他人の悪口や嫌がらせの投稿をガイドラインで禁じている。
記者は3月から4月にかけて模造品と確認した8点以上について、不正を指摘する投稿を繰り返した。だが全て「ガイドライン違反」との理由で、非公開となった。不正な出品だと他の消費者に警告したかったが、かなわなかった。
信用揺るがすリスクも
アマゾンは「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」と呼ばれる米ネット大手4強の中でも、今後の潜在的な成長力が最も大きいとの見方もある。ネットを通じて膨大なデータを集めるだけでなく、物流やデータセンター、実店舗などのインフラも持ち、世界の小売市場で圧倒的な地位を築きあげているからだ。アマゾンは年間1657億ドル(約18兆円)を売り上げ、米国のネット通販で約半分のシェアを握る。日本でも利用者が4千万人を超え、売上高は約1兆5300億円と、楽天をしのぐ規模に成長してきた。
だが不正出品に対する審査の甘さは、盤石にみえるアマゾンの足をすくう問題につながる可能性がある。サービスの効率や使いやすさを追求するあまり、不正な出品への対応にスキをみせれば、アマゾンそのものの信頼を損ないかねない。
アマゾンジャパンは12日、有料会員「プライム」の年会費の値上げを発表したばかりだ。ネット上には「値上げするなら出店者の管理をしっかりしてほしい」との声が出るなど利用者の目も厳しくなる。偽ニュースの氾濫や個人データの取り扱いの不備から、世界的な批判を浴びたフェイスブックの事例は対岸の火事ではない。
アマゾンは「不正防止に力を入れている」と強調する。しかし出品手続きでは楽天より確認作業が少なく、実際に出品された商品への「模造品」との指摘への反応も薄いのが実態だ。
一方で返品の手続きは迅速だった。悪質な業者とは連絡がつかなくても、商品の発送や返品手続きはアマゾンが代行するため問題は起きない仕組みだ。模造品と判明した商品を返送すると、1週間以内に送料も含めて全額が返金された。1人の消費者としては、ほとんど不満は感じなかった。
返品手続きがしっかりしていれば、消費者側の損害は最小限に抑えられ、苦情も出にくいのかもしれない。だが本当にそれでいいのか。改めてアマゾンに聞いてみた。「不正防止の取り組みが不十分ではありませんか。企業の社会的責任を果たしていないのではないでしょうか」。アマゾンジャパンの広報は、「真摯に受け止め、引き続き不正防止に取り組んで参ります」と回答を寄せた。
3月に記者が購入し、「模造品だ」と指摘したゴヤールのバッグは、今もアマゾンに出品され続けている。
(データエコノミー取材班 兼松雄一郎)
データ資源は21世紀の「新たな石油」といわれる。企業や国の競争力を高め、世界の経済成長の原動力となる。一方、膨大なデータを独占するIT(情報技術)企業への富と力の集中や、人工知能(AI)のデータ分析が人の行動を支配するリスクなど人類が初めて直面する問題も生んだ。
連載企画「データの世紀」とネット社会を巡る一連の調査報道は、大きな可能性と課題をともにはらむデータエコノミーの最前線を追いかけている。