鮮烈勝利のアーモンドアイ 実況で全身ゾクゾク
3月30日、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイのメイダン競馬場でドバイ国際競走が行われました。日本調教馬は9頭が出走し(ドバイ・ワールドカップのケイティブレイブは出走取り消し)それぞれに健闘しました。筆者は今年で3年連続のドバイ出張となりましたが、とりわけ今年は印象深いレースが多かったように思います。
何といっても筆頭はアーモンドアイでした。昨年の牝馬三冠とジャパンカップを制した歴代級の最強牝馬が、今年の初戦に選んだのはドバイ・ターフ(G1・芝1800メートル)。いよいよ世界に打って出るということで、各国の競馬メディアがその動向に注目しました。筆者も現地ドバイで、注目度の高さをひしひしと感じることになりました。
筆者はレース2日前(28日)の早朝に現地ドバイに到着。早速、競馬場に向かい、関係者やファンが集まる朝食会場でアーモンドアイを管理する国枝栄調教師に取材しました。軽くごあいさつした後、インタビュー収録という流れで、準備のために一瞬の間ができたのです。すかさず現地の人が駆け寄り「一緒に写真撮ってくれ」。既に多くの海外メディアの取材を受けていた国枝調教師は、ちょっとした有名人になっていたのでした。
国枝調教師も快く応じ、この光景を見た周りの人が我も我もと写真やサインを求めます。その度に一人ひとり、丁寧に対応するのはさぞかし大変だったろうと察しますが、その姿にお人柄も感じられました。
■単勝オッズに表れた期待の高さ
翌29日の最終調整を終えた後、国枝調教師はアーモンドアイの状態について手応えを口にしていました。「ここまでやることはだいたいこなしてくれた。調整力があるというか、海外の環境にも慣れているね。普段と変わらないのが一番いい」。国枝調教師はこの日もトルコ、フランス、香港といった海外メディアの取材攻勢にあっていました。
筆者も前記の朝食会場や滞在先のホテルなどで「アーモンドアイを応援しに来ました」という何人もの日本人とお会いしました。アーモンドアイの出資会員の方々が応援ツアーに多数参加したとも聞きました。レース本番に向け、注目と期待はさらに高まっていきました。
今年のドバイ・ターフは13頭が出走し、うち日本調教馬が3頭。アーモンドアイのほか、一昨年のドバイ・ターフを制したヴィブロス、秋華賞を勝ち昨年のドバイ・ターフで3着だったディアドラと3頭すべてがG1勝ちのある牝馬でした。海外勢10頭のうち国際G1馬は2頭だけと、日本馬に大いにチャンスありとみられていました。日本中央競馬会(JRA)の馬券発売で、アーモンドアイの単勝オッズは1.2倍。期待の高さは数字に現れていました。
実況する筆者の心境も、普段とは異なる緊張を感じつつも、レースぶりをこの目で見られるのがとにかく楽しみでした。公平さを心掛けつつ、実況はやはり日本勢、特にアーモンドアイを常に意識しながらのものになりました。
わずかな心配は、前哨戦のジェベルハッタ(G1)を制したドリームキャッスルを含め、地元UAE勢3頭がすべてゴドルフィン(ドバイのムハンマド首長率いる競馬組織)の所有馬であるという点。3頭でアーモンドアイを徹底マークすることも想定されました。
実況が始まり、スムーズなゲート入りから好スタートを描写してまずは一安心。そしてゴドルフィン勢の動きに目をやると、徹底マークという形ではなさそう。この時点で好走は間違いないと思われました。
やがて最後の直線、クリストフ・ルメール騎手に軽く促されたアーモンドアイは楽々と先頭へ。ドバイの地でもこれほどの強さを見せつけるのかと、実況しながらゾクゾクするような興奮が全身を走りました。実況中にこのような感覚を覚えるのはほとんど経験がありません。そのままアーモンドアイは余裕を持ってゴールイン。鮮烈な海外デビューを果たしたのでした。
■実況したら5戦5勝、縁を感じて
ドバイ・ターフではヴィブロスが2着、ディアドラが4着と日本勢が上位に。この日はほかにも、ドバイ・ゴールデンシャヒーン(G1・ダート1200メートル)で、マテラスカイが同レースの日本馬歴代最高の2着と大健闘しました。またドバイ・シーマクラシック(G1・芝2410メートル)はシュヴァルグランが2着、スワーヴリチャードが3着と、それぞれ海外初遠征で好走。日本調教馬の奮闘が深く印象に残った一日となりました。
アーモンドアイの関係者は、10月に行われる凱旋門賞(フランス・パリロンシャン)を視野に入れていると報じられています。日本競馬界の悲願でもある凱旋門賞制覇の期待が、この絶対女王に託されることになります。よりタフなコースで、タフなレースになることの多い凱旋門賞はアーモンドアイにとって決して簡単ではないはずですが、この馬なら何とかしてくれるのでは……。そう思わせるものがあります。
筆者個人としてもアーモンドアイには、ちょっとした縁を感じています。昨年の牝馬三冠からジャパンカップまで4戦全てを実況し、今回のドバイ・ターフも実況することができました。これで筆者が担当時のアーモンドアイは5戦5勝です。これだけの馬ですから、筆者以外のアナウンサーが実況しても勝つだろうし、たまたまの巡り合わせとは思うのですが、相性が良いと感じてもらえたら、うれしい話です。
こうなったらアーモンドアイを筆者も追いかけます。秋のパリロンシャン競馬場で、凱旋門賞を勝つ瞬間を実況できたらこれほどうれしいことはありません。大一番まであと5カ月半、その時を楽しみに待ちたいと思います。
(ラジオNIKKEIアナウンサー 小塚歩)