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心に届く浪曲 世界へ 春野恵子さん(もっと関西)

私のかんさい 浪曲師

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■大阪を拠点にグローバルな活動を続ける浪曲師の春野恵子さん。東京都出身で東大卒業後にタレントとして人気を得たが、浪曲との巡り合いが転機となり、関西と出会う。師匠の下で修業した堺市は「第二のふるさと」という。

2000年にテレビ番組「進ぬ!電波少年」の「ケイコ先生」役で出演して話題になった。でも売れたのは番組の力。小さい頃から歌や芝居を仕事にしたかったので求めているものと違った。人生を乗っ取られた気がして悩んでいた。

03年、講談を目当てに訪れた東京・浅草の木馬亭で浪曲を聴き、衝撃を受けた。好きなミュージカルや時代劇の要素が両方味わえる。修業で実力を磨けるし、師弟関係にも憧れていた。それまで浪曲を全く知らなかったのに、明け方には、どんなにヘタでも一生続けようと決めた。

録音で色々な浪曲を聴き、堺市にお住まいだった二代目春野百合子さんの楽屋を訪ね、入門を志願した。「やめときなはれ」と断られたが、「浪曲がなければ私の人生もありません」と食い下がった。「では声を聴かせて」と言われた時は「おさん茂兵衛」を練習し備えていたので「来たー」と胸が高鳴った。

■最初は東京から夜行バスで通った。弟子入りを認められ、04年1月に頭を丸刈りにして大阪府岸和田市の賃貸マンションへ。3カ月住んだ後、師匠と同じ堺市に移った。

師匠と同じマンションに住んだこともある。大阪には親戚も友達もいなかったので、浪曲と出会わなかったら関西との出会いもなかった。やりたいことを始められた堺は第二のふるさとだ。今も(大阪市と堺市の間を流れる)大和川を渡るとホッとする。師匠が亡くなられた後は胸がキュンと締め付けられることもある。堺市の歴史や文化、ものづくりなどを紹介する番組にも出演している。

浪曲と関西文化の関係は深い。大阪の芸人、浪花伊助が人気を博したことから浪花節と呼ばれるようになったとの説もある。広沢虎造も関西で修業したと聞く。関西は文楽発祥の地でもあり、様々な芸能が影響を与え合いながら育まれていったのだろう。

大阪には今も浪曲がめちゃ好きという人が多い。そういう地に移り住むと、地面から足の裏を通して文化を吸収できる感じがする。

浪曲の魅力は性別や年齢に関係なく、一人で何役も演じられること。ドラマの俳優は撮影が終わればサヨナラだが、浪曲は一つの演目を長い時間かけて育てていける。歌ありセリフありの"ひとりミュージカル"なので聴く側も気軽に楽しめると思う。落語作家の小佐田定雄さんは、私の語りを聴いて「脳を通さずにいきなり心に届く」と言ってくださった。

■14年、ネット上で資金を募るクラウドファンディングを活用し、米ニューヨークで英語の「番町皿屋敷」を披露。中国、ドイツ、ロシア、モンゴル、オーストラリアなどでも公演した。

英語圏では英語で演じ、それ以外の国では日本語で語り、現地語の字幕を見てもらった。海外では多くの人が日本の文化に興味を持ってくれているが、能や歌舞伎を知っていても浪曲を知る人は少ない。国内外を問わず、少しでも多くの人に体感してほしい。

かつて一世を風靡した浪曲が廃れたのは、人気が出すぎたことが大きいのではないか。ピークを過ぎると古くさく思われてしまった。今の若い人には古いというイメージもないので、新しい出会いとなる。

浪曲に触れる機会を増やしてもらおうと、ジャンルを超えた活動もしている。ロックバンドと組み、ビートルズなどの曲に合わせて浪曲をうたう「ロック浪曲」もその一つだ。

何でも画一化されていく世の中で、浪曲を育んだ関西には関西らしさを保ち続けてほしい。パワフルで楽しい人が多いことが関西の魅力だと感じる。

(聞き手は堺支局長 塩田宏之)

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