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「強いヤツの使命」 本田圭佑、貧困と闘う

アスリート事業家の冒険(1)

(更新)
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「きょうで人生が終わるとしたら?」。サッカー選手、本田圭佑は日々、自分に問いかける。「毎日、鏡を見た瞬間、『きょう、最後』というぐらいの感覚。そんな生き方をしています」。人生の終わりを意識することで何かに取り組む情熱が「倍増する」という。

朝ごとに懈怠(けたい)なく死して置くべし――。武士道の書「葉隠」そのままの心得は、昨夏のワールドカップ(W杯)ロシア大会の前から意識するようになった。知人の70歳前後の経営者にこう薦められたからだ。「僕の年にもなると、この日が最後だというつもりで生きられる。本田君の年でそれができれば、すごいアウトプットができる」

ロシア大会開幕の前日に32歳になった本田は、大会後もすさまじいペースで「アウトプット」を続ける。2020年東京五輪の出場を目指し、所属先のクラブであるオーストラリアのメルボルン・ビクトリーで奮闘中。昨夏からはカンボジア代表チームの実質的な監督も務める。そして近年、存在感を増すのが経営者としての顔だ。

12年から運営するサッカー教室は国内外で74校に増えた。本田が率いる「KSK(ケイスケ)Group」のビジネスはその後も拡大。スポーツ用のウエアラブル端末の販売や、保育園運営も手掛けている。

現役選手がビジネスに注力する理由は何か。「誤解されているかもしれないけど、目的はお金じゃない。何かの問題や課題を抱える人の不満を解決することです」

孤児院訪問が事業のきっかけに

実業家・本田の原風景は、自ら出場した10年のW杯南アフリカ大会にあった。日本が16強に進出したこの大会で、現地の孤児院を訪れた。「すごく苦労している子どもがいたし、南アの現状では(彼らが)将来、高確率で犯罪に手を染めてしまう。24歳の時にそう聞いたことが、何かできないかという思いを固めるきっかけになった」

普通ならいっときの同情で終わる話。なぜ貴重な時間や資金を費やすのか。「使命感じゃないですか。自分がサッカーの夢を追いかけることができた理由が2つある。1つは日本人として生まれたこと。もう1つは両親。僕はプロになってW杯に出場できたけど、孤児院の彼らのモチベーションは何なのか。きっかけもお金もない。サッカーが好きでも、プロになる絵は描けないわけですよ」

「僕が感じている、父に対して、日本に対しての感謝。そういうもの(恵み)を提示されていない人たちのためにやれることをやろうという、ちょっとした使命感から(事業は)始まった。自分がもらったものを自分が渡す。マイターン、自分の順番になった感じです」

最初に手をつけたのが「子どもたちに夢を与えるきっかけ」となるサッカー教室で、次のステップが投資だった。16年に個人資金100%で設立したKSKエンジェルファンドは数億円を約50のベンチャー企業に投じている。グループ全体の事業規模は数十億円に膨らんだ。

スポーツ界には、天から授かった才能によって手にした富を、寄付や慈善事業という形で社会に還元するスターは多い。セリーナ・ウィリアムズ。クリスティアーノ・ロナルド。イチロー。本田もその意義は否定しない。「寄付にいちゃもんをつけるヤツは最低。いいことはいい」と語るが、自分が篤志家になるつもりはない。根底には、寄付という対症療法ではなく、事業によって社会の病巣を根治したいという思いがあるようだ。

「僕なりの解決の仕方として、身銭を投資に回す。投資先が雇用を生み出したり、テクノロジーやサービスで『お金が理由でやりたいことを継続できない問題』を解決したりできるんじゃないか」

「使命感」はさらに大きなビジネスの扉を開いた。18年7月、米国の俳優ウィル・スミスとベンチャーキャピタル(VC)の「ドリーマーズ・ファンド」を設立。野村ホールディングス、電通、資生堂などから1億ドル(約110億円)近くを集め、米国のスタートアップ企業に投資している。

サッカー選手と人気俳優が投資ファンドを扱う。生兵法はけがのもと、と案じる向きもあるだろう。だが「経済が理由で自分の夢を追えない人たちの問題を解決したい」と語る本田の言葉は熱っぽい。その理念がスミスを動かした。「経済格差をなくすというところは、すごく共感してくれましたね」

スタートアップに投資

2人の出会いから1年をかけ、徐々に温めたプロジェクト。本田の側近で、両者を仲立ちした中西武士が言う。「一緒にビジネスができるかどうかを確認するため、共同で投資をしたりしてきた。これなら問題があっても話せば解決できる、一緒にできるとお互いが確信した段階でファンドを立ち上げた」

他人の資金を運用するのは本田にとっても初めての試みだ。「すごい責任とプレッシャーを感じる」と語る一方、日本のベンチャー投資の突破口にもなり得ると説明する。「問題は、日本の金が米国のスタートアップにしっかりと投資できていないこと。(上場間近の)レイトステージではソフトバンク(グループ)を中心にかなり入っているけど、アーリーステージ(創業間もない段階)を押さえた日本資本が存在しない。そこに挑戦している。日本人にとっても、とても大切だと思う」

米国では金の卵の情報を著名人だけで共有し、外に漏らさない。本田とスミスの人脈でその奥座敷のふすまを開け、日本企業を招く。現在の投資先は約20社。「全ての企業に言えるのは(米国の)トップVCが投資しているか、各業界のトップ(経営者)の家族が投資しているような会社だということ」と中西は自信を示す。

例えば、Cubcoats(カブコーツ)という企業。子供服に早変わりするぬいぐるみが米国で売れており、米アパレルブランドのフォーエバー21の経営者一族や、米大リーグ機構(MLB)も投資しているという同社の株は、ドリーマーズ・ファンドが買った時から価値が3倍に上がったという。

サッカーを事業の参考に

これだけの事業を起こす日本人アスリートは過去にいなかった。本田は語る。「影響力を持った有名人が世の中のために事業をやる。やらない理由はない。影響力があるので(世の中を良くするために)巻き込める人も多い」。高貴な身分や富を持つ人は世のために果たすべき義務があるという「ノブレス・オブリージュ」に近い考え方。「当たり前の話ですよ。強いヤツが(責任を)果たし、我慢しないといけない」

スポーツの経験は起業に生きるのか。「サッカーと、会社組織やプロジェクトは、一人でできないところが共通している。それぞれに役割があり、モチベーションを高めて目的を達成する過程は本当にそっくり。僕はほとんどのプロジェクトをサッカーに置き換えたり、参考にしている。監督とか、選手でもゲームメーカーのタイプは事業をやれる」

人材マネジメントでも、スポーツから得られる知見は大きい。「(トップレベルの)サッカーは競争を勝ち抜いた選手が集まっていて、プライドが高い選手ばかり。全員は試合には出られないし、出ても活躍する、しないがある。プライドが高い選手たちのモチベーションをコントロールする術は(事業にも)共通する」

事業のすべてが順風満帆だったわけではない。「失敗は?」と尋ねると「いっぱいある」と即答する。「サッカースクールも思っていた以上に厳しい」。年代別の日本代表選手を輩出するなどの成果は出ているが、拡大のペースや利益率は本田の期待を下回っている。現在は一部の赤字校を閉鎖し、利益率を高める方向にカジを切りつつある。

15年に買収したオーストリア3部リーグのクラブ、SVホルンもそう。2部への昇格を果たしたものの、経営的にはやや苦戦。日本人スタッフの人数や投下する資金を縮小した。「最初からもう少し現地の人とミックスした組織づくりをできたらよかった。(人口が少ない)ホルンという場所も売り上げを伸ばすポテンシャルがなかった。完全に良い勉強をさせてもらった」

本田は15歳の時、Jリーグクラブのユースに入団を断られた。決して将来を嘱望された選手ではなかったが、イタリアの名門・ACミランの10番を背負うまでに出世した。失敗から多くを学び、才能あるエリートたちを追い越した。サッカー教室を営むようになってから、選手が若いうちに身につけるべきものについて、こう語ったことがある。「もし唯一、挙げるなら心技体における心の部分。うまくいかないときに心が折れない強さは必要です。失敗を経験している選手のほうが強い」

経営でも失敗は大事か。「と思いますね。(ビジネスを)やっていたら失敗するんで。失敗にはすごい価値があると思えばいい」

成功と失敗のつづら折りを突き進む本田は、はた目には生き急いでいるようにすらみえる。実際、時間の流れ方は人と違うようだ。毎日のスケジュール表を本田と共有する中西が言う。「彼は物事を持続的にやり、人の3倍の量をこなせる。英語の勉強は1日2時間で、1日も休まない。読書も僕らがついていけないスピードです」

誰もが夢を追える世界に

毎日の練習後も、インターネット電話などを介した起業家らとのミーティングがみっちり詰まっている。「タイムマネジメントがすごい。切り替えや、集中力はずばぬけている」と中西は感嘆する。

それは「きょうが最後」という切迫した死生観と結びついているのだろう。そんな本田が「試合終了」の笛の前に実現したい未来とはどんなものなのか。

「経済的な理由でやりたいことができない、夢を追うことができない。そういうことがない世界が実現していたら、僕は幸せやなって思います。その一端をどこまで担えるか分からないけど、ちょっとでもやれるところからやっている。死ぬまでにそういう世界が実現していればいいな」

おとぎ話のような未来。本人も「難しい話だとは思う」と自覚しつつ、こう続ける。「実現しているんじゃないかなっていう楽観もある。どこまでAI(人工知能)が進んでいるかにもよるけど、(未来の)世界が想像を絶するものになる可能性もあるので」

本田のように日本のアスリートや有名人が次々に起業し、世の中に貢献する。そんな社会への道筋も見えているという。「時間の問題じゃないかな。影響力のある人で(ビジネスなどを)やっている人は増えている。それがグンと伸びるタイミングは、近い将来に来る。それは僕らに懸かっている」

その理想は遠いが、もしかしたらできるかもと思わせる引力のようなものがある。一流のアスリートが持つ、前を向く力。周囲を照らす言葉。日本代表選手としてピッチ上で発揮した資質は、経営者・本田のもう一つの強みだろう。

=敬称略、つづく

(谷口誠)

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「現役終えたら、ただの人」。人生の半ばで選手生活を終えるアスリートたちは、そんなふうに揶揄(やゆ)されてきた。だが「セカンドキャリア」という言葉がスポーツ界にも定着した昨今、現役引退に前後して事業を興す者がめずらしくない。社会の貧困を解消するため起業する者、自らが半生をささげた競技の改革に乗り出す者……。活動のフィールドを変えながら戦い続ける彼らの挑戦を追う。

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