英離脱再延期、EU内に温度差 「1年延期」案も
【ブリュッセル=竹内康雄】メイ英首相が欧州連合(EU)からの離脱期限の再延期を申請したのを受けて、EUは10日の臨時首脳会議で対応を協議する。EU内には条件付きで最大1年の延期を容認する意見が浮上する一方、加盟国からは「再延期の理由が不明確」との批判が出るなど温度差も目立つ。再延期には全加盟国の同意が必要で、「合意なき離脱」を回避できるか不透明感も漂う。
英議会はこれまでメイ首相とEUがまとめた離脱協定案を三たび否決した。英国は今後の方針を決められなければ、12日に「合意なき離脱」を迫られる。メイ氏は野党・労働党に協議を呼びかけ協定案承認への道筋を探るが、労働党側が「政府に譲歩の意思がみられない」と反発するなど、交渉は難航している。
メイ氏が5日、EUのトゥスク大統領宛ての書簡で6月30日までの再延期を申請したのは、国内で方針が決められないままの「見切り発車」といえる。フランスのルメール経済・財務相は「なぜ延期が必要か理解できなければ、前向きな答えは出せない」と突き放す。オランダのルッテ首相も「(書簡は)重要なことに答えていない」と切り捨てた。
ただ、EU内には「合意なき離脱」が欧州経済にもたらす悪影響への懸念も強い。そこで浮上しているのが「最大1年延期」案だ。英議会が協定案を可決すれば離脱日の前倒しを認める一方、このまま英政治の混迷が続く場合でも小幅延長の繰り返しを避ける狙いがある。トゥスク大統領が加盟国に打診したとされ、臨時首脳会議でも討議される可能性がある。
トゥスク案が加盟国の支持を得られるかは見通せない。時間の猶予が得られたとして英議会の混乱が長引くリスクが高まるのに加え、「英離脱問題に人や時間を割かれ、EUの改革が滞っている」(EU筋)と不満を持つ国は少なくないからだ。
急先鋒(せんぽう)の一つがフランスだ。マクロン仏大統領はユーロ圏共通予算や欧州軍の創設など自らが唱える改革案に焦点が当たらない現状にいらだっているとされる。
5月23~26日には欧州議会選が予定されている。選挙日以降も英国がEUにとどまるならば、英国は欧州議会選に参加する必要がある。EU側は英国の離脱を見越して、議員定数を削減する措置などを盛り込んだ法整備を済ませている。
これまでメイ首相は欧州議会選への参加には「離脱派の理解が得られない」として慎重だったが、再延期を申請した書簡では「事態を打開できなかった場合には、議会選の準備に責任を持つ」と方針の転換をにじませた。英国が実際に参加するとなれば、EU側は再び法改正などを迫られるため、英国が早期に態度を決められない現状にいらだちを募らせる。
ドイツやフランスでは英国がEUに当面残留する場合も、予算や人事など重要な決定事項への関与を制限すべきだとの声も上がっている。いずれ離脱をするのであれば、英国がEUの将来を決めるのはふさわしくないとの理由だ。
欧州議会選では、英離脱などの影響でEU懐疑派などのポピュリズム(大衆迎合主義)政党の躍進が予想されている。英保守党の強硬離脱派の筆頭格、リースモグ議員は「英国が欧州議会選に出ることになれば、英国独立党(UKIP)などのEU離脱派が勢いを増す」と、長期延期論をけん制した。