WTO、安保理由の通商制限容認 米政策に追い風
【ジュネーブ=細川倫太郎】世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会(パネル)は5日、輸出品の通過ルートを制限するのは不当としてウクライナがロシアを提訴していた問題で、ウクライナの主張を退けた。安全保障上、正当な措置としていたロシアの訴えを認めた格好だ。WTOが安保を理由にした紛争案件で判断を下したのは今回が初のケースとなる。
安保上の脅威を理由に18年の鉄鋼・アルミニウムに続き、自動車への追加関税を各国対象に検討するトランプ米政権にとって、今回の判断が追い風となる可能性はある。
ロシアは2014年に軍事力でウクライナ領クリミア半島の併合を宣言。軍事物資が混入しないようカザフスタンなどに輸出されるウクライナ製品のルートを制限した。
ウクライナは16年9月、これをWTOのルール違反だとして提訴した。
一審にあたるパネルは報告書で「14年時点で両国には国際関係上、緊急事態となる状態があった」と指摘し、安保上の利益を守るためロシアの措置は必要だったと判断した。WTOルールはモノの通過の自由を保障するが、安保を理由に規制できる「例外規定」を適用できると結論づけた。
WTOは紛争処理で二審制を採用している。ウクライナは裁定に不服な場合、60日以内に最終審に相当する上級委員会に上訴できる。
安保の是非が焦点となっている紛争では、米国と中国や欧州連合(EU)など9カ国・地域が争っている案件がある。トランプ米政権は海外からの輸入増加が国の安全を脅かしていると主張。安保を理由に輸入制限を認める米通商拡大法232条を発動させ、鉄鋼とアルミニウムに追加関税を課した。提訴国は「輸入制限は国内産業保護のための措置」など反発。18年にパネルが設置され、審理が続いている。